オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『悪党に粛清を』

The Salvation, 92min

監督:クリスチャン・レヴリング 出演:マッツ・ミケルセンジェフリー・ディーン・モーガン

★★★

概要

妻子を殺された男が復讐する話。

短評

シンプルなプロットで雰囲気に全振りした感のある西部劇。寂寥感の漂う一作である。トーン自体があまりにも重厚で、その上、「シブい」という形容詞を体現するマッツ・ミケルセンが主人公。敵もワケアリな大物っぽくて、おまけにミステリアスな美女まで出てくる。まるで壮大な復讐譚のようだが、基本的にはよくある設定のよくある話に身を任せているだけである。それでもやはり雰囲気が物凄く良いので、映画の始まりから終わりまで西部の世界にずっぽりと浸ることができた。EDロールの間にもやたらと余韻があった。

あらすじ

1864年、敗戦により荒廃した母国デンマークから兄ピーターと共にアメリカへと渡ったジョン(マッツ・ミケルセン)。それから7年が経ち、母国に残してきた妻マリー(ナナ・オーランド・ファブリシャス)と息子クレステンを遂にアメリカへと呼び寄せる。しかし、駅馬車に相乗りした酔漢とトラブルになり、妻子は殺されてしまう。男を追って殺したジョンだったが、男の兄デラルー(ジェフリー・ディーン・モーガン)が町の有力者であったため、彼の怒りを買うことになる。

感想

“復讐が復讐を呼ぶ”系の虚しさ漂う一作なのだが、最初の酔漢ポールが理不尽にクズ過ぎて「こいつさえいなければ……」感が強い。ちょっとした間違いが悲劇へと繋がるのではなく、「全部ポールが悪い」と言い切ってしまってもよい気さえする物語である。兄デラルーも相当なクズだが、こちらは西部劇の悪役としてよく出てきそうな“悪者らしい悪者”である。役者も良いので大物らしい雰囲気がある。一方の弟は小者感が酷く、より“やる必要のない事”をやって殺されるハメになっている。阿呆である。

もっともデラルーの方も憎々しく描かれているのは間違いない。彼の「二時間以内に犯人を見つけろ」という要求を保安官兼神父(これは利益相反があって仕事にならないのでは?)が「ちょっと無理」と断ると、「じゃあ正午まで」と延期した時には物分かりの良い奴だと思ったが、「見つからなかったら代わりに二人差し出せ」は意味不明である。これは西部の時代にはよくあったことなのだろうか。彼にも「先住民狩りで精神が荒んだ」という悲しい過去風の言い訳的描写があったが、上述の通りに雰囲気全振りな一作なので、内面や背景が深堀りされることはなかったように思う。

それは主人公ジョンについても同様である。「家族を殺されたので復讐する」という最大のミッションは最初に達成してしまったため、残りの仕事は流れに身を任せているに過ぎないような気もする。兄を殺されたという動機は存在するが、「なにがなんでもデラルーを討たねばならぬ」という映画の根幹の部分が見えてこない。そのため、最後に復讐を遂げた時のカタルシスも今ひとつとなっていた。むしろ殺されて気持ちよかったのは町長キーン(ジョナサン・プライス)の方で、彼の入った棺を乗せた馬が無人で町を進むショットが西部劇らしくて好きだった。

「こういう時代なので皆色々と事情があるのです」を強引に納得させてしまう雰囲気を持った本作において、その象徴的な存在がマデリン(エヴァ・グリーン)である。彼女は先住民に舌を切り取られて口がきけないが、大変な美人なので、ポールに娶られ、デラルーが「この時を待ってた」と死んだ弟から寝取り、更にはデラルーの部下(エリック・カントナ)が「殺すには惜しい」とたらい回しにされる。物言わぬ彼女の心中を察するのは難しいが、彼女の瞳に宿る強靭な意思が、その壮絶な半生を物語るのであった。しかし、彼女が最後にジョンと連れ立って旅立つのは無理やり映画的大団円にした感も否めず、“あえて語らない”のではなく“元々設定がない”部分も多いのではないかと思わざるを得なかった。割と演技頼りである。

ジョンとマデリンが立ち去った後の町に乱立する油井のラストショット。デラルーの仕事も、キーンの裏切りも、全てはこの油田が絡んでいる。本作の復讐譚に登場する人物は皆、時代の大きな流れに飲み込まれたのだ……と言いたいところだが、やはり切っ掛けとなったポールの小者ぶりがここでも引っ掛かるのであった。

悪党に粛清を(字幕版)

悪党に粛清を(字幕版)

  • 発売日: 2016/04/29
  • メディア: Prime Video