オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『I AM スティーヴ・マックイーン』

I Am Steve McQueen, 93min

監督:ジェフ・レンフロー 出演:スティーヴ・マックィーンアリ・マッグロー

★★★

概要

スティーヴ・マックィーンのドキュメンタリー。

短評

“キング・オブ・クール”ことスティーヴ・マックィーンを、家族、俳優、関係者、評論家たちが口を揃えて「クール、クール」と褒めそやすドキュメンタリー映画。これは少々神格化し過ぎではないかと思うが、今なお彼がクールの王様であることを否定できる者はいるまい。マックィーンの内面について深く切り込むようなドキュメンタリーではないものの、ざっと彼の人生を振り返ることができて、「やっぱり格好いいなあ」と思える一作である。

あらすじ

アル中の両親を持ち、更生施設に入り、と恵まれない少年時代を送ったスティーヴ・マックィーン海兵隊生活を経て演技を学び、27才で初主演映画に出演(『マックイーンの絶対の危機』は『ブロブ』のオリジナル)。その後、持ち前のクールな魅力でスター街道を駆け上がり、負けず嫌いな性格が災いして周囲と対立することも多かったものの、数々の名作を世に放っていく。また、私生活では三度の結婚と二度の離婚を経験し、カーレーサーとしても本格的に活動する。しかし、アスベストが原因で癌を患い、50才の若さでこの世を去る。

感想

本作は“負けず嫌い”としての側面を強調することで「それもマックィーンの生き方」という風に紹介しているが、エピソードの節々から彼の傲慢さが見え隠れしている。『荒野の七人』出演時には主演のユル・ブリンナーが自分よりも目立っているのが許せずに嫉妬し、『大脱走』では自分の役がもっと目立つように要求してストライキ。『栄光のル・マン』では映画の方針を巡ってマックィーンと確執を起こしたジム・スタージェスが降板。プロデューサーを兼任した『トム・ホーン』でも監督を解任しており、割とやりたい放題で傲慢なスターであったことが分かる。若い頃に「他人には絶対負けられない」と過剰な競争心を燃やすのは後になって微笑ましいエピソードとして語ることができるものの、キャリア後期の『タワーリング・インフェルノ』でもポール・ニューマンと同じ台詞量を求めて脚本を変更させたというのだから相当なものである。

しかし、そんな悪い面を知っていてもなお、スクリーンで輝くマックィーンの魅力には誰も抗えない。(マックィーンがプロデューサーから寝取った)二番目の妻アリ・マッグロー曰く、「男たちは手本にし、女たちは寝たがり、子供たちは憧れる。セクシーでカリスマ性があり、危険な香りと優しさもあって魅力にあふれている」。その通りである。本作で紹介される映画から切り抜かれたショットはもちろんのこと、プライベートでの姿までもが、まるで映画のワンシーンかのように画になっている。反則級の格好よさである。良くも悪くも完璧にハリウッド・スターである。もし彼の顔が悪くて、ハリウッドで成功していなければ、その生き様に憧れる者は誰もいないだろう。しかし、それを格好いいと思わせてしまうのだから、カリスマだとしか言いようがない。

マックィーンを語る上で欠かすことのできないモータースポーツ愛。「スタントマンなしで自分で運転しました」という俳優はよくいるが、自前のレーシングチームを作って本格参戦してしまう“ガチ勢”の象徴が彼と言えるだろう。彼の自動車好きを反映してなのか、インタビューを受ける人々の背景にはやたらと自動車が映っていた。カースタントはもちろんのこと、他のアクションシーンも自分でこなしたがったようで、『パピヨン』の飛び降りは本人によるものなのだとか(ゾーイ・ベル曰く「それなら顔が分かるショットにすれば……」)。

一時期ハリウッドを離れようとしたマックィーンに持ち込まれた企画が紹介されており、『カッコーの巣の上で』『未知との遭遇』『ガントレット』『ランボー』『地獄の黙示録』が名を連ねている。眉唾ものの話だとは思うが、「もしマックィーンが出演していたら……」というイフを考えずにはいられない(もっともいずれの作品も今の形以外では想像できないが)。

家族やマックィーンと一緒に仕事をした関係者(ノーマン・ジュイソンロバート・ヴォーン)はともかく、何の縁で出演しているのか分からない俳優陣が非常に豪華である。ゲイリー・オールドマンピアース・ブロスナンゾーイ・ベルランディ・クートゥア錚々たる顔ぶれがインタビューに答え、ナレーションがロバート・ダウニー・Jrである。ゾーイ・ベルなんて「彼のことを考えると体が……」とサービス精神旺盛な発言をしている。彼ら有名俳優以上に意味不明な出演者がモデルのマリサ・ミラーなのだが、彼女はマックィーンに群がってきた業界美女視点の代弁者ということでよいのか。「爪の内側が汚れていてもスーツを着こなせる男」は言い得て妙だったと思う。

マックィーンの長女テリーは早くに亡くなったようだが、本作のプロデューサーにも名を連ねる長男チャド、そして孫のスティーヴンとモリーは、いずれも俳優として映画業界へと進んでいるようである。残念ながらマックィーンのカリスマ性が受け継がれることはなく、あまり恵まれたキャリアを送っていないものの、スティーヴンは『ピラニア 3D』で主人公格のキャラクターを演じている(ナヨっとしていて非マックィーン的だったが)。チャドは整形後のミッキー・ロークみたいな雰囲気だった。父の遺した高級スポーツカーを彼が乗り回す映像が(無駄に)収められており、キャリアがダメでも人生には苦労していなさそうである。