オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『スパニッシュ・プリズナー』

The Spanish Prisoner, 110min

監督:デヴィッド・マメット 出演:キャンベル・スコットスティーヴ・マーティン

★★★

概要

データ開発者が怪しい金持ちに詐欺られる話。

短評

大金と美女を餌にしてカモを釣る古典的詐欺の手口「スペインの囚人」をタイトルに持つヒッチコック風味なサスペンス映画(日本だと似たような手法の「ナイジェリアからの手紙」の方がポピュラーか)。「スペインの囚人」を知っていれば主人公が騙されていることを容易に理解できるのだが、それ自体は中盤にタネ明かし及び詐欺手法の説明があり、そこから先の二転三転が楽しい一作である。どいつもこいつも怪しく見えてきて、誰を信用してよいのか分からずに混乱する。解決編も上手く騙された。

あらすじ

市場を支配し、会社に莫大な利益をもたらす“プロセス”を開発したジョー・ロス。投資家へのプレゼンと慰安旅行を兼ねて訪れたエステフェ島のリゾートで、ジミー・デルと名乗る男と出会う。ジミーは、若く美しい妹の紹介と、会社からの報酬に不満を抱えるジョーに対して弁護士の紹介を提案する。しかし、ジミーに妹が存在しないことを知って怪しんだジョーが、島で出会ったFBI捜査官のマキューン(フェリシティ・ハフマン)に連絡すると……。

感想

“プロセス”は清々しいまでのマクガフィンである。これだけ分かりやすければそれが何なのかを気にかける必要すらなく、ある意味では親切と言えるだろう。ついでに少々の粗も許せてしまうのも、偉大なるヒッチコックが後進たちに残した恩恵と言えるだろうか。その“プロセス”を巡り、主人公が典型的な詐欺の手口に引っ掛かっていると見せかけて……という物語になっている。

ジミーによる「スペインの囚人」を進行させつつ、色々と後に繋がる怪しい餌を撒いていく。冗談でスイス銀行に口座を作り、会員制クラブに入会する。ジョーはまんまと騙されているが(果たして金銭と美女のどちらにより強く惹かれたのか)、観客にとってジミーが詐欺師であることは自明に近い。重要なのは次に繋がる演出である。そして、これらの描写がきちんと回収される。この気持ち良さである。それらは少々わざとらしくもあるが、ヒッチコック風なので「それもよし」と思えてしまうのだ。

美女が老婆だと発覚してジミーが詐欺師であると分かり……からの展開。ここは完全に予想通りだったのだが、判明するタイミングが早くて驚いた。予想はしていたが、逆に言えばここまでしか予想していなかったことになる(その観客の予想を監督は予想していたか。矢三郎と赤玉先生のような先刻承知の関係)。中盤までに二つの詐欺を消化し、ここで初めて巻き込まれ型サスペンスとしての様相を呈することになる。最近『パスワード:家(h0us3)』を観たため、犬の名前や母の旧姓、そして生年月日を聞き出されるシーンが伏線になるのではないかと思ったが、特に使われることはなかった。三十郎氏にとってはこれらの描写がFBIを疑わせる結果となったが、本来であれば信用を勝ち取るための演出だったのか。

本作の上手い点は、信用と不信を上手く織り交ぜたところだろう。ジミーは一度ジョーと敵対し、和解することでより強い信用を勝ち取る。「やっぱり良い奴じゃん」方式である。こちらがジョー視点なのに対して、スーザン(レベッカ・ピジョン)にジミーの不審点を指摘させることで、観客が彼女を信用するように誘導している。元々のジミーの怪しさを活かし、「あっちがダメということは、こっちは大丈夫」と思い込ませる演出である。言わば“怪しい奴探し”の映画なので三十郎氏は彼女も怪しいと思ったが(FBIだけでなく警察も偽物ではないかと思った)、二つのレベルで「人は簡単に騙される」という事実を描いている。ジョーを見て「こんな奴に騙されるなよ」としたり顔する観客が、他方では別の人間に騙されているという滑稽さである。いつまでも同じような詐欺の手口が形を少しだけ変えて登場する理由はこれだろう。

そんな誰もが怪しいという状況を逆手に取るかのように登場する日本人観光客。序盤でジミーに「世界の名所にはどこにでも日本人がいて写真を撮ってる。暇人どもめ」とバカにさせておき、終盤にその通りの日本人が登場する。当の日本人である三十郎氏ですらも「(少々古めかしいが)こんな日本人いるよな」と思って観ていたら……からのまさかの展開。これには騙された。最も自然に存在していそうな人が偽物だなんて。あまりにもあっさりとしたラストなので、彼らもまた偽物なのではないかと不安になったけれど。