オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『自殺への契約書』

Marie-Octobre(Secret Meeting), 99min

監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ 出演:ダニエル・ダリュー、ベルナール・ブリエ

★★★

概要

レジスタンスの同窓会。

短評

フランスの密室疑似法廷劇。法廷劇と呼べるほどの精緻な議論が交わされるわけではないが(要は稚拙な人民裁判である)、その場にいる誰もが疑わしいという状況で容疑者が二転三転する展開が楽しい一作だった。第二次大戦中の汚点が15年後に明かされるとなれば、想像を絶する過去の因縁を伴った重い話になりそうなところだが、純粋にエンタメとして楽しめるようになっていた(それを示唆する演出もある)。

あらすじ

第二次大戦時のレジスタンス“勇敢地下組織”のメンバーが久々に集う。その解散から15年、彼らは久々の再会に旧交を温めていたが、屋敷の主人ピカールから今宵の目的が明かされる。レジスタンスはリーダーのカスティーユが独軍の凶弾に倒れたことで解散していたが、マリーが偶然に出会った元ドイツ人将校から裏切り者の存在を知らされたのだと言う。今夜集まったメンバーの内の誰かが、その裏切り者である。「もう過去のこと」「分かったところでどうするのか」「仲間を罰することはできない」「証拠がない」と様々な声が挙がるが、「裏切り者に遺書を書かせて自殺させる」と宣言され、犯人探しが幕を開ける。

感想

本作には何度か場の空気が一変する瞬間がある。最初のタイミングは当然に「密告者探しが本当の目的」と明かされる瞬間。それまでの朗らかな雰囲気が一転し、空気が凍りつく。しかし、本気で取り合わないマランバールがいたり、議論が堂々巡りになったりして、なし崩し的に雰囲気がダレてくる。目的が明かされた時には一気に緊張が高まったものの、「これではどうにもならんなあ……」と思い始めた──そのタイミングで次の転換ポイントが訪れる。そして再度緊張が高まるのである。

自殺という決着条件が提示された瞬間、当日に欠席者がいたことが明らかとなる瞬間、投票が行われる瞬間。そして最たるものは、証言の矛盾が暴かれる瞬間である。はっきり言って、彼らの“疑似裁判”は、ほとんど“似非裁判”とでも呼ぶべきレベルの稚拙さである。誰かが思いつきで「お前が怪しい」と疑い、疑われた者が「お前もだろ」と弁解する。それでもいくつか「これは怪しい」と思えるレベルの発言が出てくるが、犯人の特定に至る決定的なものとはならない。上述の通り、一度高まった緊張感が徐々に弛緩していく。これを何度か繰り返したところで遂に証言の矛盾というボロが出てくる。

マランバールは犯人探しよりもテレビ中継されているプロレスの様子が気になって仕方がないのだが、この疑似裁判の構図がプロレスとよく似ていると感じた(1959年当時のフランスでプロレスというスポーツがどう認識されていたのかは分からないが)。メンバーの皆が疑いという名の拳で殴り殴られ、試合が膠着した所で大技を繰り出して再び盛り上げる。そうして最後にはちゃんと決着がつく。一見緊迫した法廷劇のようであるが、実は密室サスペンスを盛り上げるための役を各々演じているだけに思えなくもない(死亡確認をするための医師までいるのだから)。純粋なエンタメなのである。

三十郎氏がこの類似性に気付いた後、苦しい弁解を強いられたマリーに対して男たちが「君を信じるよ」「やめにしよう」と桃色精神を発揮し、医師チボーは「我々は皆愚かだ」「あの時は皆ありがとう」とまで言い出す。メイドの老婆がうっかりさんで……と決着しそうになった時には「なんたる茶番!」と呆れそうになったが、流石に別の結末が用意されていて良かった。「これはプロレスですよ」というアピールはテレビ中継だけで十分である。あれだけでも少々不自然なのだから、これ以上過剰に強調することはない。コミカルな老婆によるクールダウンは、さながらプロレスの決着直前に一人のレスラーがリング中央で倒れ、もう一人がリング外が迫ってくる場面というところか。

個人的に好きな展開だったのは、矛盾を突かれて証言をひっくり返した男が、「それもウソ」と老婆に看破されるシーン。メンバーが喧々諤々の議論を交わしている一方で、彼女はそれが単なる“お喋り”であるかのように「もう済みましたか?」と酒を用意しており、本作のプロレス的構図(=いい意味でのどうでもよさ)を象徴する人物であったように思う。

投票で(一票の白票以外は)全票を獲得したシモノー。「ルーアンに行ってた」と話す彼よりも、「風邪引いて寝てた」と話すブランジェの方が怪しい気がするのだが、よほど人望がなかったのだろうか(メンバーで唯一髪はなかったが)。そこで詰められただけに、次の容疑者が浮かび上がった時には強気で攻める辺りがリアルだった。

自殺への契約書(字幕版)

自殺への契約書(字幕版)

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