オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『侠女』

侠女(A Touch of Zen), 179min

監督:キン・フー 出演:シュー・フォン、シー・チュン

★★★

概要

東林党の娘が東廠の刺客を討つ話。

短評

聊斎志異』の一篇『侠女』が原作の武侠映画。同作らしい怪異的な要素は比較的弱いものの、最後だけは唐突にぶっ飛び展開へと突入して呆気にとられた。二時間以下にまとめられそうな話に三時間掛けているため、冗長に感じられる部分はあったが、元々は『第一部:チンルー砦の戦い』と『第二部:最後の法力』の二部構成だったそうである。決して派手ではないものの、戦いの舞台や動きに独特の美学を感じられて楽しい一作だった。

あらすじ

母親から「科挙を受けろ」「嫁をもらえ」とせっつかれるも、「いつか学堂を開きたい」と代筆屋を営む三十路独身のグー。ある日、彼の店にオウヤンという客がやって来るのだが、彼は東廠が送り込んだ刺客であり、東林党の娘ヤンを追っているのだった(東廠や東林党の説明字幕あり)。追われるヤンは、グー家の向かいの廃寺に引っ越してきた女である。母から「あの子を嫁にもらいなさい」とせっつかれつつ、事実を知ったグーは、ヤンたちと東廠を討つ作戦を考える。

感想

話の大枠は原作に沿っているようだが(グーの元にヤンが現れ、交わり、復讐を遂げて、子を残して去る)、原作ではヤンの“謎の女”要素がより強調されており、最後になって復讐の事実が明かされるそうである。一方、映画は復讐関係のアクションがメインの構成となっているため、ミステリアスな要素が薄めである。決して多くを語らぬヤンは“それらしい雰囲気”を纏っているものの、亡霊といった超常的要素は戦いの上での作戦として扱われている。ちなみに原作はグーがヤンと美少年に二股を掛ける三角関係展開らしいが、映画に同性愛要素はなかった。

最大の見所となる戦いのスタイルは、目にも留まらぬ速さで剣撃を繰り出していく、派手さ重視の現代的アクションではなく、“間合い”を重視したものだった。前者がジャッキー・チェンだとすれば、後者はブルース・リーをイメージすれば分かりやすいだろうか。武侠映画らしい“超人的な動き”の表現もトランポリンを利用していると思われるジャンプくらいのもので、静謐ながらも独特の美意識が感じられる戦いに仕上がっていたと思う。

竹林の戦いが有名な一作とのことであり、『グリーン・デスティニー』のオマージュ元が本作なのだとか。鬱蒼と生い茂る竹林には独特の美しさや雰囲気がある。竹と言えば、みっちりと丈夫な繊維が詰まっていて切りづらいものだが、これを侠客たちがサクッサクッと何でもないかのように切り倒しながら戦っている。地味ながらも超人的技術と切れ味のなせる技なのだろう。一方で、この戦いの最初に「三本の矢を同時に射る」という攻撃を披露しているのだが、威力が弱すぎて敵にキャッチされている。それなら一本ずつ射ろよ。また、三本同時攻撃を数人が順番に繰り返しているのだが、一本ずつを三方向から同時に射る方が明らかに効率が良いだろう。竹に登って飛びかかる攻撃が、通常の“飛び降り”ではなく“飛び込み”の姿勢で一直線なのが格好よかった。

三十路独身男グーのキャラクターがなかなか楽しかった。「息子に跡取りがいなくて死に切れないわ(チラッチラッ」と愚痴るグー母の要望に応えたヤンが、「今夜うちに来て」とグーを誘う。彼女の歌から“朝チュン”の流れである(亀のつがいが映るのが面白い)。「我々は夫婦も同然」とヤンに協力すると決めたグーだが、彼は腕に覚えがない。そこで、「私は幼い頃から兵法の書を読んできたんだ」と、リアル“やるなら軍帥”と化す。そこまで言ったくせにヤンに「何か作戦は?」と尋ねるので、「お前が作戦担当じゃなかったのかよ!」と思わずツッコミたくなった。しかもヤンの答えを却下した後に自分の作戦を提案する面倒なタイプだった。

竹林待ち伏せ作戦や(出所をグー母にするのがリアルな)亡霊の噂作戦を用いて(この戦いの後に高笑いするグーが狂ったようで怖かった)、オウヤンら東廠の刺客を討つ。目的を果たして姿を消したヤンが「グー家の跡取りです」と赤ん坊を岩地に置き去りにし、最後の刺客シューと戦う(彼の手下がサモ・ハン・キンポー)。ここからが超展開。ヤンが出家した先のフイエン大師が大物で、(「坊主のくせに」「宦官の犬のくせに」というやり取りを経て)シューを制するも、シューの不意打ちを食らってしまう。すると、シューは(ネガポジ反転して)気が狂い、大師は金色の血を流す。一体なんだったのか……。最後だけ唐突に別作品のようなサイケデリック展開になって驚いた。

侠女(字幕版)

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聊斎志異〈上〉 (岩波文庫)

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