オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ブリーズ ~光と影~』

Breathe: Into the Shadows

監督:マヤンク・シャルマ 出演: アビシェーク・バッチャン、アミット・サダー

概要

娘を誘拐された父親が犯人から殺人を強要される話。

短評

Amazon Originalのインド製ドラマ『ブリーズ ~父親の葛藤~』の続編。シーズン1とあるがシーズン2である。「子供のために父が人を殺める」という設定が踏襲されている他に登場人物の一部が続投しているが、前シーズンを観ていなくても困らない程度には独立した内容だった。本シーズンの殺人は自発的なものではないため、「誰が?」「何のために?」というミステリーが視聴者をグイグイと引っ張り、そこには驚愕の答えが用意されている。プロットの完成度は前シーズンを上回っていたと言えるだろう。いくつかの欠点はあるものの、最初から最後まで目を離せない一作だった。

あらすじ

デリーの精神科医アヴィナシュとアバ(ニティヤ・メネン)夫妻の可愛い一人娘のシヤ(イヴァナ・カウル)が、友人の誕生日パーティーから忽然と姿を消してしまう。警察は誘拐事件と見て捜査を進めるも、夫妻の必死の呼びかけの甲斐なく犯人からは何の連絡もなし。娘の消息は掴めない。シヤが姿を消してから9ヶ月、娘にはインスリン注射が必要なこともあり、夫妻は徐々に諦めを感じ、絶望に暮れていた。そんなある日、夫妻の元に荷物が届く。中にはタブレットが入っており、軟禁生活を送るシヤの映像と犯人からの要求が収録されていた。その要求とは、「ある男の“怒り”を引き出して殺せ」というもの。

感想

一人目の標的は“怒り”を(彼は潔癖症で紙幣を物理的に洗っている)、二人目の標的ナターシャ(シュルティ・バプナ)は“色欲”を……と来れば、これは『セブン』を思い出さずにはいられない。しかし、ここはインド。別のご当地設定が用意されていて、三人目の標的は“恐れ”である。また、“罪”を理由に殺されるのではなく、“感情”を引き出して殺すことが条件となっている。このインド版『セブン』とも呼ぶべきプロットには実に心惹かれるものがある。前シーズンと同じく犯行の描写にはご都合主義的な箇所が散見されるものの、その欠点よりも先の展開や謎に注意を向けさせることに成功している。

インド版『セブン』の正体は、七つの大罪ではなく、10の感情。ラーヴァナというラーマーヤナに登場する悪人が関係している。ラーヴァナは10の頭を持っており、それぞれ「妄想(Delusion)」「裏切り(Betrayal)」「怒り(Anger)」「プライド(Pride)」「恐れ(Fear)」「無神経さ(Insesitivity)」「慢心(Ego)」「色欲(Lust)」「わがまま(Selfishness)」「執着(Attachment)」の感情を象徴している。一般に“悪”とされるそれらを、犯人は“人間に必要不可欠”であり“強さ”であると考えてきたが、ある理由から“切り落とす”ことに決める。その仕事を主人公が担う理由が大きな焦点となっている。

アヴィナシュが犯人の要求に従って殺人を犯していくと同時に、そうした目的らしきものが少しずつ解明されていく。被害者が何らかの形で過去にアヴィナシュと接点を持っていることも分かってくる。そして、EP5が神回である。このシリーズは中盤に最高の盛り上がりを持ってくることに全てを懸けているような気さえしてくる。EP5の最後の展開を目の当たりにして、「それではEP6はまた明日」と自制心を発揮できる人はきっと少ない。

ここが最大の盛り上がりであり、そこから先は少々尻すぼみ感があるものの、この驚愕の展開を経ることで更なる疑問が湧いてくる。「え?なんで?なんで?」に頭を支配される。その疑問を氷解させるべく、“解決編”よりも“解明編”に力の込められたドラマだった。明かされる真実はなかなかに切ないもので、その対比として挿入される娼婦シャーリー(Saiyami Kher)を巡るエピソードは胸を打つ。はっきり言って動機としては弱いし、殺人の必然性も感じられない。結末にも力技感がなくもない。しかし、それでもなお最後まで興味を持続させる怒涛の勢いだった。

犯人に翻弄されている箇所が多く、主人公の選択や葛藤といった要素は弱まっている。しかし、最後に妻が「真相か娘か」の選択を迫られている描写が僅かではあるが挿入されているのが良かった。彼らの葛藤は事件解決後も続くのだろう。“まだ終わっていない”ことが示唆されるラストではあったが、あの後に何が起こるのだろう。直接の続編が予定されているからシーズン1扱いだったりするのか。

前シーズンからカビール刑事らが続投。よりを戻したかに思われた美人妻リアとは円満離婚しており、彼女はナレ死的にパリへと移住させられている。彼がムンバイからデリーに異動して事件に関わる展開は無理やりな気もしたし、前シーズンのように彼でなくてはならない理由も弱いが、共に異動してきた部下プラカシュとのコンビで楽しませてくれた。彼がデリーでの新部下ジャイプラカシュと張り合うような描写も好きだったが、最終的には良いコンビになっていた。彼らのエピソードには蛇足に思えるものも多いが、何気ない描写が捜査の突破口を切り開く伏線になっていたりして、この辺りは尺の長いドラマシリーズの強みか。

ブリーズ ~光と影~

ブリーズ ~光と影~

  • メディア: Prime Video