オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ブリーズ ~父親の葛藤~』

Breathe

監督:マヤンク・シャルマ 出演:R・マーダヴァン、アミッド・サダー

概要

肺移植が必要な息子のために父がドナーを殺す話。

短評

Amazon Originalのインド製ドラマ。歌って踊らないシリアスなタイプである。続編である『ブリーズ ~光と影~』が先に配信されていて待つべきか悩んだが、迷っている内に配信が始まった。優しい父親が息子のために凶行に走るという設定や展開は面白かったが、それを“究極の愛”として扱う価値観には共感できなかった。自分に子供がいれば違った感想になるのだろうか。主人公のライバルとなる刑事を物語に絡ませる方法が良く、[心優しき殺人犯vs事件を追う刑事]という前者の複雑さにばかりフォーカスされそうなドラマにアクセントが加わっている。

あらすじ

ムンバイでサッカーコーチをしているダニーには幼い息子のジョシュがいる。ジョシュは生まれながらに肺病を患っており、移植を受けられなければ余命いくばくもないという状況にあった。しかし、彼は移植待ちリストの四番目。その上、血液型が珍しいAB型Rhマイナス。これでは機会が巡ってくるまで生きられない。亡き妻に対し息子を守ると誓っていたダニーは、息子の移植待ち順位を繰り上げるためにドナー登録者を殺すことにする。

感想

ダニーにとっての至上命題は「息子を生かすこと」に他ならないわけだが、この方法で生かされる息子の心中やいかに。実行犯でもなければ頼んだわけでもないとは言え、自分が生きるために他人の命が奪われたという事実に耐えられるものなのだろうか。「一人の命を救うために数人が命を落とす」のは感動的自己犠牲となりうるが、「落とす」の部分が「奪われる」では話が違う。幼い彼にはまだ理解できないかもしれないが、いつか残酷な事実が突きつけられるであろう、「君の父親は連続殺人犯で、君は父の奪った命を生きている」「間接的に殺人を犯したも同じである」と。

こんな“生きているだけで罪”のような原罪を背負って生きていくというのは、命を落とすよりも辛くはないだろうか。そうでなければサイコパスである。その感情面の問題を理解せずに“生きる”という便益のみを重視したのか。それとも理解した上で「大したことではない」と切り捨てたのか。いずれにせよ父もサイコパスである。やはり連続殺人なんておぞましい所業ができるのは、“息子を想う父”ではなく、サイコパスなのである。ある意味でダニーの独善性を象徴しているとも言えるが、本作では息子を想うが故の行動として最後まで描かれている。

そんなダニーを追うことになる刑事カビール。こちらは過去に自身の不注意から娘を亡くしており、極度のアル中に陥っているダメ刑事である。ダニーによる“完全犯罪”に対して「なにかオカシイぞ」と気付くだけであれば“普通”としか言えないのだが、個人的にはEP4が神回。彼の離婚調停中の妻リア(サプナ・パビ。めっちゃ美人)がドナー登録者で、ダニーの次の標的であることが明かされる。特に珍しい展開ではないものの、これは盛り上がった。刑事であれば事件の犯人を追うのが当然の仕事だが、そこに“家族を守る”という主人公と同じモチベーションが付与される。しかもこちらは“過去に守れなかった”という悲しい背景付きである。それまでは娘を亡くしてシクシクしてるだけのおっさんだったが、ここで二人の“家族を守る父親”の対決という構図が生まれるのである。

喘息や交通事故を装うダニーの犯行アイディアは面白かったが、ドラマであることを加味しなければ無理のあるものであったように思う。色々と証拠が残るだろう。もっともカビールの捜査手法の方がより問題がある。彼は別のレシピエントを誤認逮捕し、事件解決と見せかけてダニーの気を緩ませるのだが、この冤罪被害者をめちゃくちゃに拷問している。彼も移植を待たずに死にそうなくらいに殴られている。そこまでやった後になって「あれ?これはオカシイぞ」と気付き、「あなたが犯人でないことは分かっている。でも真犯人逮捕のために協力してほしい」と言い出す。よくもぬけぬけと。お前もサイコパスかよ。

EP4に次ぐ神回はEP5。こちらは笑いの面で。リアが危ないと察知したカビールが警戒網を張り、リア宅へ視察に訪れたダニーと対峙する(視察段階で自宅へ堂々の侵入)。逃げるダニー、追うカビール。一見立派な体格で頼りになりそうなカビールなのだが、彼はアル中でフラフラなので、ポッチャリおっさんのダニーに逃げ切られてしまう。ダニーは単なるコーチではなくサッカーの元名選手という設定のようだが、あの体型であれば体力は相当に低下しているだろう。「元サッカー選手だから俺から逃げ切れたのだ」と疑うのはカビール自己欺瞞である。

ダニーが大人のドナーばかりを殺しているので、大人の肺を子供に移植できるものなのか──サイズが合わないのではないかと疑問に思ったが、切り取って使うことができるらしい。医療技術って凄いですね。