オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『獣人』

La Bête humaine, 97min

監督:ジャン・ルノワール 出演:ジャン・ギャバンシモーヌ・シモン

★★★

概要

殺人発作持ちの機関士が悪女と出会う話。

短評

エミール・ゾラ原作の犯罪映画。映画の冒頭に主人公が遺伝性の発作に苦しんでいるという説明があるものの、これは彼の思い込みであると示唆されている。また、ファム・ファタールの登場によって、遺伝よりも生育環境が人間性の形成に寄与することが本作の主題ではないかと考えされられる。ところが、最後に影を潜めていた発作が顔を出し、結局どういうことなのか分からなくなってしまった。悪女との出会いが遺伝以外の因子であったと考えてもよいのだろうか。監督のジャン・ルノワールは『ゲームの規則』もそうだったが、よく分からんなぁ……。

あらすじ

これは遺伝性の発作に苦しむジャック・ランチェの物語である。大酒飲みの遺伝子が血を毒に変え、凶悪な行動に駆り立てられる発作に度々襲われてきた。機関士として働くジャックは、ある日、駅長ルボーと彼の妻サブリーヌが殺人現場から立ち去る姿を目撃するものの、警察の聴取に対して沈黙を守る。ジャックとサブリーヌは惹かれ合い、サブリーヌが夫の殺害を唆すようになる。

感想

サブリーヌは、“女の武器を使って何でも手に入れる”タイプの女である。嗚呼、怖い。ルボーが殺害したのは彼女の養父グランモランで、妻が養父の愛人であること知って嫉妬したのがその理由(どうせろくなことにならないのだから薄らハゲが若い美人を娶るのは慎むべき)。ルボーはグランモランに対して怖い人のイメージを抱いているが、サブリーヌ曰く「欲しい物は手に入ったし、叱られたこともない」。これはお察しである。

そんな悪女がジャックと出会って惹かれ合い(彼女が本当に何を考えているのかは分からないが)、「夫さえいなければな~」である。なんたる白々しさ。ジャックに「殺せ」と命令しているようなものではないか。計算高いファム・ファタールとは異なるものの、自分の肉体的魅力を持ってすれば男を意のままに操れることを理解している。魅力に抗い切れない美女という印象は受けなかったが、怖い女である。

そんな悪女が登場するため、冒頭から強調されてきたジャックの遺伝性疾患は単なる思い込みであり、「幼い頃に辛い思いをした」と語るサブリーヌのように環境が行動を決定する要因であることを描いているのではないかと考えながら映画を観ていると、まさかの展開。サブリーヌとのくっついたり離れたりを繰り返したジャックが彼女を唐突に絞め殺す。件の発作である。それまでの自分の見方が完全否定されてしまい、大いに戸惑った。

原作のエミール・ゾラが提唱した“自然主義”文学の考え方は、行動の決定要因に遺伝や環境を含んでいるらしい。どうやらジャックとサブリーヌの二人を通じてその両方を描いたようである。これは三十郎氏の教養不足を認めざるを得ない。他の理由による激昂を遺伝のせいにしているのではないかと考えていたが、振り返ってみると、故郷の恋人フロールの首を理由もなく締めるシーンがあり、やはりジャックに内在する衝動なのであった。

ジャックは鉄道の機関士である。自分の機関車を“リゾン”と呼んで愛でるアクティブな鉄オタである(この時代の機関車は個人所有だったのか、修理代をジャックが負担するシーンがある)。フロールの首を締め出した時には機関車の通る音を聞いて我に返っており、一種の精神安定剤となっているようだった。これを“遺伝”という要素と併せて考えると、発達障害児が鉄道を好むと言われることと何か関係があるのだろうか(原作執筆の時代に見抜いていたのなら凄い先見の明!)。機関室の仕事風景や、沿線の景色、線路や車輪と様々な鉄道映像が映し出されるので、鉄オタには嬉しい一作なのかもしれない(そうではないので分からないが)。

獣人(字幕版)

獣人(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 
獣人 ゾラセレクション(6)

獣人 ゾラセレクション(6)