オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『マッスル 踊る稲妻』

I, 187min

監督:シャンカール 出演:ヴィクラム、エイミー・ジャクソン

★★★

概要

マッチョが憧れのモデルとCMで共演する話。

短評

「マッチョ要素が最初だけじゃねーか!」とツッコみたくなるインド映画。一般にインド映画は長めの作品が多いものだが、本作は内容に比して長過ぎた。楽しいことは楽しいが、流石に3時間超えは長くてダレる。時間軸を弄った構成も上手くいっておらず、全てが分かった時にスッキリするような感覚が味わえないばかりか、無用な混乱を招いていたように思う。劇中で広告業界を扱っているために多くのCMが登場するのだが、メインとなるラブストーリーの大半をCMの内容で表現するという変化球が見事だった。

あらすじ

ミスター・インドを目指して日々厳しい筋トレに励むリンゲーサンには憧れの女性がいた。モデルのディヤー(エイミー・ジャクソン)である。彼女がCMに出演していれば生理用品でもブラジャーでも何でも購入するリンゲーサンに千載一遇の好機が訪れる(部屋にはシュワちゃんの切り抜きも!)。ディヤーのCM撮影時の警護として雇われたのである。ディヤーは共演者ジョンからのセクハラに悩まされており、ボディビルの地方大会に優勝してプロテインのCMに出演していたリンゲーサンを新たな共演者としてスカウトする。全国大会と撮影が重なって悩むリンゲーサンだったが、憧れの女性の頼みを断りきれず、共に中国へと向かう。

感想

冒頭でディヤーが大人気のCMモデルだと紹介するためだけに数種類のCM映像を実際に作成している。これがセットの規模もエキストラの数もやたらと豪華である。「力の入れ所が間違っているのではないか?」と疑問に感じるものの、このハチャメチャ感がボリウッドならではで楽しい。エキストラには白人女性が多く、自国のスターが白人を従えるという構図への憧れとコンプレックスにアジアらしさを感じた。ディヤーは美白クリームのCMにも出演しているし、そもそもボリウッドが地元ムンバイよりも肌の色の薄い北インド出身者を優遇しているという話も聞く。

CMだけでディヤーを紹介した後は、主人公リンゲーサンの紹介。ここでも大量のエキストラが登場する。しかもボディビルの地方大会が舞台なので、皆マッチョである。見渡す限り(暑苦しい上に臭そうな)マッチョの海である(画面の隅の方の人は少しショボい)。ボディビルなのに審査項目にダンスがあったりして、ポージングしながら踊る“筋肉ダンス”が見られる。このダンスと、ライバル・ラヴィとの闘いの前に大胸筋をピクピクさせて威嚇するシーンが、ピークと言ってよいほどの面白さだった。なお、リンゲーサンを演じるヴィクラムは確かにマッチョだが、大会に出場している他のビルダーたちと比べると明らかに追い込みが甘く、腹部がプヨっとしている。また、チキンレッグである。

導入部はコメディ、アクション、そして(少しストーカーっぽいインド独特の)ロマンスが見事に融合しているが、そこから先の展開はイマイチ。リンゲーサンがディヤーのために全国大会出場を諦めた後は、マッチョ要素が一切出てこず、他作品との差別化要素が豪華過ぎるCM映像しかない。二人がくっついてスターとなり、その過程で“敵”になった者たちがリンゲーサンを醜く変貌させ、彼が復讐するという話である。冒頭で花嫁のディヤーが肌がブクブクに膨れたせむし男に誘拐されており、リンゲーサンが救う話なのかと思いきや、このせむしがリンゲーサン本人。それが繋がるだけのプロットならよかったと思うのだが、敵への復讐シーンを彼が恨みを買った直後に挿入しており、時間軸が分かりづらい。この分かりづらさに演出上の意味は感じられなかった。

ディヤーとリンゲーサンの出演するCMの中では、やたらと官能的なチョコクッキーのものが好きだった。あれは画面から目が離せない。“ブルー・シティ”ジョードプルを駆け巡り、飛び回るジーンズのCM。素晴らしいジーンズを履いた二人は惹かれ合い、男女が恋に落ちたCMの最後にはジーンズを脱ぐ。それでいいのか?インドのCMは控えめにエロい。二人の出演するCMがボリウッド映画を体現するかのような豪華絢爛な内容であるのに対し、リンゲーサンに仕事を奪われたジョンの出演しているCMのショボさである。日本のローカルCMのような味を感じた。

ディヤーに恋い焦がれるリンゲーサンには何でも彼女に見えてしまうというマジックリアリズム的なボリウッド・ダンスのシーンがある。ここでディヤーが(魚を含む)数々のコスプレを披露していて楽しいのだが(バーベルが美女に変身するのがセクシーで素敵)、半熟の目玉焼きを自分の胸に押し付けるリンゲーサンの意味不明さが全てを持っていく。

醜悪な姿となった自分にショックを受け、姿を消したリンゲーサン。ディヤーの母が「早く別の相手と結婚して」と彼女にせがみ、冒頭の結婚式と相成る。ここで母が「結婚しないなら死ぬ」とばかりにハンガーストライキを決行して脅迫しているのだが、流石に急かし過ぎだろう。あの展開が普通に許されてしまうのだから、やはりインドの価値観は独特である。

CM撮影に向かった中国で、佐々木希が「ニャンニャニャ~ン」と踊るロッテFit'sのCMが流れている。あのダンスがインドのCMの感性と合致したのだろうか。

飲酒・喫煙シーンで毎回「飲酒・喫煙はあなたの身体に有害です(想像)」的なテロップが表示されている。『インド・オブ・ザ・デッド』の時にはギャグかと思ったが、どうやらそういう規制があるらしい。

監督が『ロボット』のシャンカールなので、『ロボット2』に出演するという役者が登場する小ネタがある。彼の“メソッド演技”は見事だったが、実際に『ロボット2.0』に出演することはなく、ディヤー役のエイミー・ジャクソンが出演を果たしている。

マッスル 踊る稲妻(字幕版)

マッスル 踊る稲妻(字幕版)

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