オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ナチス第三の男』

HHhH(The Man with the Iron Heart), 119min

監督:セドリック・ヒメネス 出演:ジェイソン・クラーク、ジャック・オコンネル

★★★

概要

ラインハルト・ハイドリヒが暗殺される話。

短評

前半はハイドリヒ視点で彼の半生を、後半は暗殺部隊視点で暗殺から報復までを描いた欲張りセットな一作。後半については『ハイドリヒを撃て!』とほとんど同じであり、特に目新しい点は見受けられなかった。また、前半についても、尺の短さ故なのか、ハイドリヒの人物像や内面へと十分に迫ることができなかった印象である。どういう経緯でSS高官となり、どのような作戦を率いたのかが簡単に紹介されていただけだったように思う。

あらすじ

海軍将校のラインハルト・ハイドリヒ(ジェイソン・クラーク)はリナ(ロザムンド・パイク)と出会い、結婚を決める。ところが、ヤリ捨てした女(Kristina Goztola)が有力者の娘で、軍法会議の末に不名誉除隊に。ナチ党員だったリナの伝手でヒムラーと出会い、新設された情報部の長官となる。共産党員を撲滅し、更には特別行動隊として“浄化”作戦を指揮した彼は、ボヘミアモラヴィア副総督としてチェコに。在英チェコ軍のヤン(ジャック・オコンネル)とヨゼフが地元レジスタンスと協力し、ハイドリヒ暗殺計画──エンスラポイド作戦が始動する。

感想

妻がナチ党員だったこと、海軍を不名誉除隊されたこと。この二つの要素が重なって、ハイドリヒは親衛隊としての道を歩みはじめたらしい。「ヒトラーの熱心な崇拝者ではない」という点が彼を他のナチ高官たちと隔てる要素らしいが、特に葛藤が見られるわけでもなく、自分の能力を最大限に活かせる仕事を楽しんでいるかのような印象だった。ナチ入党前の失態やコンプレックスを挽回するような動機もあったのかもしれないが、特に掘り下げはない。狡猾で残虐という表面的な性格や能力以上の“何か”は描かれていなかったように思う。一時間で史実を追うのだから、必然的にダイジェスト感が出てくる。

そして、残り一時間もダイジェスト感がある。『ハイドリヒを撃て!』でじっくり二時間掛けた内容を半分の時間に収めているのだから当然である。エンスラポイド作戦は同作以外にも何度か映画化されているようなので、どうせならハイドリヒだけにフォーカスすればよかったと思うのだが……。しかし、やはりこちらの方が映画的に面白いのである。特に、ヤンとヨゼフが最後に教会に逃げ込んで死闘を繰り広げるシーンなんかは相当に盛り上がる。銃撃戦だけでなく水攻めという要素があるのも緊迫感を高める。暗殺成功の快挙からの壮絶な報復という悲劇性が人々を惹きつけ(報復を受けた村に積み上げられる死体の描写が冷たくも生々しかった)、複数の映画が製作されている理由なのだろう。本作はそこを差別化すべく前半パートがあるわけだが、欲張り過ぎてどっちつかずになっていた印象だった。

写真で見るハインリヒや三十郎氏が勝手にイメージするSS高官像に、ジェイソン・クラークは全く一致しない。何と言うか……、“田舎のおっさん”感のある顔立ちで、金髪を撫で付けた髪型がまるで似合っていない。本人はもっと“シュッと”しているが、本作ではムッチリしている。写真からは“顔色一つ変えずに冷酷非道な指示を出す”男のような印象を受けるのだが、映画では割と感情的な部分を見せている。実際にはどうだったのだろう。“金髪の野獣”と呼ばれているくらいだから、それなりに感情を表に出す男だったのだろうか。ちなみに、“三十郎氏の勝手なイメージ”だが、冷酷に殺害指令を出すSS高官はレアル・マドリートニ・クロース、笑顔でユダヤ人を殺す現場隊員はバイエルン・ミュンヘントーマス・ミュラーのような顔立ちが似合うと思っている。失礼極まりないイメージだが、他意はない。

レジスタンスの娘たちと恋人を演じて現場を視察し、実際に恋人になるヤンとヨゼフ。どいつもこいつもよろしくやっている。ヤンの恋人アナを演じているのがミア・ワシコウスカである。二人が交わるシーンで、ほんの一瞬だけ“見える”。本作最大の加点要素と言えるだろう。

ハイドリヒの死について。弾詰まりからの手榴弾という流れは『ハイドリヒを撃て!』で見たものと全く同じ。「一見失敗したようだが結局死んだ」というのが史実なのだろう。本作は彼にフォーカスを当てているため、「結局死んだ」の部分がもう少し詳しく描かれるのではないかと期待したが、ヒムラーに“ユダヤ人問題の最終解決”を託して息絶えるだけだった。

『ハイドリヒを撃て!』でも描かれていたレジスタンスにとっての障壁となる市民の密告制度。本作はそれに加えて、ハイドリヒの副総督就任スピーチに興味深い文言が見られる。「工員の給料を上げる」というものである。密告は報酬と引き換えに相手を陥れる、良心の呵責を伴う行為だが、それ以外の方法でも市民の意識的分断を図ることができる。現代社会にも同じ構図が見られはしないだろうか。

ナチス第三の男(字幕版)

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  • 発売日: 2019/08/07
  • メディア: Prime Video
 
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