オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『新しき世界』

신세계(New World), 135min

監督:パク・フンジョン 出演:イ・ジョンジェ、ファン・ジョンミン

★★★

概要

潜入捜査官が暴力団の後継者争いに巻き込まれる話。

短評

拷問シーンのえげつなさが韓国映画らしい潜入捜査もの。暴力、葛藤、友情、謀略、そして裏切りと盛り沢山な一作だった。いくつかの欠点が目立ちはするものの、多彩な要素を盛り込み、複雑な人間関係で先を読ませず、それらを見事にまとめ上げていたと思う。潜入捜査ものの定番である「バレるかバレないか」のシーンが暴力描写の生々しさ故に非常に緊張感漲るものに仕上がっており、韓国映画らしさも活きていた。

あらすじ

8年間の潜入捜査を経て、組織の序列第3位であるチョン・チョン(ファン・ジョンミン)の舎弟として信頼を得て、理事にまで上り詰めていたイ・ジャソン(イ・ジョンジェ)。彼は潜入生活に疲弊していたが、組織のソク会長が事故死(=暗殺)したことで、カン課長(チェ・ミンシク)から次の会長が決まるまでは任務を続けるように強要される。後継者争いの本命は、チョン・チョンと第4位のイ・ジュング(第2位チャン・スギは半引退状態)。この争いを期にカン課長の始動させた“新世界プロジェクト”の内容とは……。

感想

さて、“新世界プロジェクト”におけるジャソンの役割は何か。これは後々になってプロジェクトの全貌が明らかになるまで分からないため、それまでの彼は主人公なのに存在感が薄い。これは明らかな構成上のミスだろう。その上、その役割すらも大して重要だとは思えないのだが、この弱点を吹っ飛ばす程の魅力と勢いを感じられる一作である。

拷問から始まる掴みはバッチリである。被害者の顔についた血糊の色味がその壮絶さを窺わせるだけでなく、死体の処理方法が凄い。ドラム缶にコンクリート詰めにして海に投棄するのだが、存命中の男の体内に“フォアグラ方式”でコンクリートを流し込む。この本気具合に度肝を抜かれた。

仕事をする場面が少なくて何のために潜入しているのかイマイチ分からないジャソンをよそに、カン課長が暗躍する。一方でチョン・チョンに取引を持ち掛け、他方ではジュングにチョン・チョンとの関係を開示する。「チョン・チョンvsジュング」の組織内対立に始まった後継者争いは、ジュングの逮捕により「カン課長・チョン・チョン同盟」に推移したかと見せかけて、「(カン課長の計略による)チョン・チョンvsジュング」の同士討ちへと帰着する。第二の同盟の部分で「組織の根絶よりも扱いやすい奴をトップに据えたい」という課長の意向が明らかにされるが、その対象はチョン・チョンではない。

チョン・チョンやジュングよりも“扱いやすい”有力者──半引退状態のチャン・スギをトップに据えるため、二人には仲間割れによって死んでもらう。組織内で力を持つジャソンは、スギの後ろ盾としての役割を押し付けられるのである。これで警察による実質的支配が完成する。二人が死んだ時点で自然にスギが後継者と浮上した感があったのでジャソンの存在感は依然薄いような気もするが、組織内の対立を利用して謀略を巡らせ、二転三転する展開には舌を巻いた。

しかし、このままではジャソンが“主人公”にならない。カン課長の計画に必要であったとしても、映画的に必要性が感じられない。ここで活きてくるのが、チョン・チョンと彼の関係性である。彼ら二人は華僑であり、偽りの友情が本物の友情へと変化している部分がある。凄腕ハッカーの仕事により潜入捜査官の身元を見破ったチョン・チョンだが(この重要な仕事を凄腕ハッカーで流すのは雑)、内通者の美人囲碁教師シヌ(ソン・ジヒョ。ドラム缶の中の下着姿がセクシー)とジャソンの手下ソンムを殺害する一方で(シヌが残虐な目に遭う前に自ら“安楽死”させるジャソンの葛藤が憎い)、ジャソンについては見て見ぬ振りを決める。たとえ嘘の関係であろうとも、彼は本物の兄弟の如き絆を感じており、殺すに殺せないのである。

このチョン・チョンの思いにジャソンがどう応えるのかをもっての結末となる。ドラマ性と衝撃度のバランスに優れた素晴らしいものだった。しかし、二人の友情についてはエピローグで「長い付き合いで絆が育まれたのでした」風に表現されており、説得力の面では少し弱かったようにも思う。非常に面白い一作なのだが、上述した箇所と併せて、いくつか構成面で改善する余地があったと言えるだろう。本作そのものも素晴らしかったが、リメイクする場合にも相当なポテンシャルを秘めていると思う。

他に物語を盛り上げるのが、手下ソンムのようにジャソンにそれとは知らされていない潜入捜査官の存在。彼の妻ジュギョン(パク・ソヨン)もまたカン課長の送り込んだ内通者である。誰が味方なのか分からない、誰も信じられない、全てが嘘だらけ──そんな状況だからこそ、ジャソンはチョン・チョンとの関係を自分の“生きる道”として“選んだ”のだろう。「辞めたい」と言うジャソンを「組織に身元をバラすぞ」と脅し、これまた「辞めたい」と言うジュギョンを「ジャソンに身元をバラすぞ」と脅すカン課長。ヤクザよりもよっぽど冷酷非道な上司だが、彼もまた「辞めたい」と漏らしたところをコ局長に留意されている。潜入捜査は蟻地獄の如し、進むも退くも地獄であった。

カン課長が警察内のデータを消去し、自分の身元を知る人は皆始末して、“本物”になったと思っているジャソンだが、彼は妻が内通者であることを知らぬままのはず。彼女も警察との繋がりはカン課長だけなのだろうが、これは消化不良な要素と捉えるべきか、それとも“その後”も続く地獄に通ずる要素と捉えるべきか。果たしてジャソンの本当の“新世界”は……。

保釈されたジュングの元に刺客が送り込まれ、死を覚悟した彼の一言が格好いい。「逝くにしてもタバコの一本くらいはいいだろ?」。この落ち着きである。チョン・チョン側に感情移入させるために体のいい悪役を押し付けられていた彼ではあったが、この一言だけで“それだけではない”印象を残すこととなった。

新しき世界(字幕版)

新しき世界(字幕版)

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