オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『サム・ペキンパー 情熱と美学』

Passion & Poetry: The Ballad of Sam Peckinpah, 119min

監督:マイク・シーゲル 出演:サム・ペキンパー、L・Q・ジョーンズ

★★

概要

映画監督サム・ペキンパーのドキュメンタリー。

短評

映画史に残る数々の作品を監督したサム・ペキンパーの生涯を追うドキュメンタリー映画。「ペキンパー作品の真髄とはなんぞや」に迫るタイプのものではなく、彼の生い立ちから死までを時系列順に追いかけていく構成なので、彼の作品を十分に知っていることが本作を楽しむ前提だったように思う。その点において、片手で数えられる程度しか観ていない三十郎氏にはイマイチな一作だった。内容的にも「才能ある人が酒と麻薬で身を崩しました」というハリウッドの典型的な栄光&挫折パターンで、各作品の裏話以外の部分にはあまり興味が持てなかった。 

あらすじ

厳格な父と抑圧的な母に育てられ、ミリタリー・スクールへと進んだサム・ペキンパー。その後、海兵隊を除隊後に大学で演劇を学び(マリー・セランドという女性目当てで専攻を歴史から演劇に変更。二人は結婚)、テレビや舞台の仕事を得るようになる。表現の規制が厳しいテレビの世界から映画へと身を移し、『荒野のガンマン』で映画監督デビュー。妥協を知らぬ制作姿勢からスタジオと対立することの多いペキンパーだったが、数々の映画を世に放っていく。しかし、やがては酒や麻薬浸りの生活へと身を落とし、59才でこの世を去る。

感想

「破天荒な映画を撮っていた監督が実生活でも破天荒だったが故に早逝しました」みたいな人生だっただろうか。これは彼の“伝説性”を高めるのに一役買うエピソードとも言えるが、スタジオと対立することも、酒と麻薬で身を崩すのも、ハリウッド的には“ありふれた”光景である。その姿を彼の作品と重ねることもできるのだろうが、三十郎氏が観たことのある作品は『わらの犬』と『ゲッタウェイ』の二作品だけという体たらくであるため、それほど特別なものには感じられなかった。

そこで「せっかくだから観てみるか」と考えるわけだが、プライム会員特典として配信されているのはデビュー作『荒野のガンマン』の一作だけである。しかも、同作は劇中で「脚本がどうしようもなくダメで、リライトもさせてもらえなかった」と貶されており、イマイチその気になれないのであった。『ワイルドバンチ』『戦争のはらわた』『ジュニア・ボナー』の三作品をお願いします、アマゾンさん。

関係者の語るサム・ペキンパーは、人格破綻者そのものであった。彼の作品の常連だったL・Q・ジョーンズ曰く、「俺みたいなコワモテやスターにはそうでもないのに、格下には徹底的に威張り散らす」。「自分はどうしてこんなに嫌われているんだろう?」と疑問を口にしたペキンパーにジョーンズがその事実を告げると、ペキンパーは「分かった。そうなってたら止めてくれ」。その直後に衣装係の女性を大声で罵倒し、その罵倒の直後に「何話してたっけ。そうだ、止めてくれ」である。部外者としては笑えるエピソードだが、当事者はたまらないだろう。演技の下手な女優をコテンパンに罵倒し、彼女がショボンとした表情を撮影して映画のラストショットに使ったというエピソードも、今なら確実にパワハラで告発されている。何度も結婚と離婚を繰り返しているのもハリウッドではよくある話だが、彼の場合は人格面での問題が大きそう。

他に好きだった撮影中のエピソードは、『ダンディー少佐』の撮影中にクビになりかけるも、主演のチャールトン・ヘストンが「自分のギャラはなしでもいいから監督を続けさせろ」と申し出たというもの。ここだけ切り取ると非常に男気を感じるが、ヘストンはポーズで言ってみただけで、実際には払われるだろうと思っていたのだとか。なお、本当にノーギャラになったというオチがついている。

スティーヴ・マックィーンとの仕事は『ゲッタウェイ』のイメージが強いが、『ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦』なる作品が先に制作されていたことを初めて知った。ちなみに、『シンシナティ・キッド』も当初はペキンパーが監督だったが、無許可でヌードを撮影したために4日でクビになったのだとか。

女優に対しては相当に厳しかったようである。『わらの犬』撮影時に、ダスティン・ホフマンとも方針の違いがあったようだが(内面を掘り下げようと事細かに質問するホフマンに対し、「好きにすればいい」とペキンパー)、スーザン・ジョージの扱いは相当に酷かったよう。まるで劇中の状態に劇外で追い込むという“演出”を施したそうである(ホフマンも加担)。思い返してみると、同作での彼女の姿こそが『ヒッチハイク』で三十郎氏の感じた胸の高鳴りの源流であるような気がしてきた。これは是非とも再度観てみなければならぬ。

あまり面白いドキュメンタリー映画だとは思えなかったが、なんだかんだでペキンパー作品を観たくさせるという意味では上出来だったのか。