オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アウトサイダーズ』

Trespass Against Us, 99min

監督:アダム・スミス 出演:マイケル・ファスベンダーブレンダン・グリーソン

★★

概要

犯罪者一家から抜けられない話。

短評

アイリッシュ・トラヴェラーの一家を描いた一作。『スナッチ』に出てくるブラピの一族“パイキー”と同じ(彼らよりは“ちゃんと”喋る)、トレーラーハウスで暮らすアイルランド系漂流民のことらしい。劇中の「別の人生なんてない」という言葉の通りに、犯罪稼業以外に生きる術を知らない者たちの物語である。主人公が妻子のためを思って抜け出そうとするものの、厳しい現実が降り掛かり……という重苦しい展開はそれなりに見応えがあったが、前提となるアイリッシュ・トラヴェラーについての知識がないこともあり、「どうして父親の言いなりなのだろう?」と今ひとつ話に入り込めなかった。

あらすじ

イギリス、グロスタシャー州。チャド(マイケル・ファスベンダー)は、父コルビーや妻子、そして仲間たちと共にトレーラーハウスで暮らしている。彼らはまともな教育を受けておらず、犯罪で生計を立てている。妻ケリーの意向もあり、チャドはコミュニティを去ろうかと考えていたが、絶対的な権力を誇るコルビーがこれを許さない。ある夜、コルビーの指示でチャドが強盗に入った先が州総監の家で、彼は警察を全面的に敵に回してしまう。

感想

コルビーは「俺の跡取りが云々」と度々口にするが、誰もこの一族を引き継ぎたくなんてないだろう。コルレオーネ家ならばいい思いもできるだろうが、カトラー家ではひたすら底辺を這いずり回るだけである。これは正に打ち切られるべき負の連鎖に相違ないわけだが、彼らには彼らの“家族の絆”があるという話である。

コルビーは学校教育を悪と見なしているため、チャドは学校に通えなかった。チャドの二人の子供、タイソンとミニは妻の意向もあって学校に通っているが、家族が家族なので、学習レベルに問題を抱えている。我々“一般人”は「これは子供のためにも出ていかなければ」なんて考えるわけだが、仮にチャドがコルビーに逆らい負の連鎖から抜け出そうとしたとして、果たして上手くいくのだろうか。

チャドはタイソンの誕生祝いに犬を買おうとするが、血統証の登録用紙への記入ができない。公教育を受けなかった彼は文字を書けないのである。そんな男が一族から抜けて生計を立てようとした時に何ができるか。当然犯罪しかない。元の木阿弥である。それはコルビーにとって先刻承知のことだったのだろう。きっと代々同じ葛藤を繰り返してきているのである。それならば自分の論理を突き通そうとするのも理解できなくもない。

こうして一族が“犯罪一家”としての結束を強めていくに従って、周囲からの偏見も強まる。そうなると彼らが“まとも”になるために必要な支援や助けを得ることは叶わず、余計に犯罪に走るしかない。一族内部と外部との二つのレベルで負の連鎖が渦巻いている。となると、やはり「別の人生なんてない」ということになるのであった。彼らの絆は、同時に呪縛なのである。この連鎖を断ち切れたと思えないラストにはイマイチ釈然としないが、彼らに他の人生があるとも思えないのであった。

果たしてタイソンは、“しばらく会えなくなる”父の言葉を受けてどう育つのだろうか。でも彼はお爺ちゃん子だからなぁ……。最後に唐突に良い話になったのは無理やり感があったが、彼らの物語を扱う上で一縷の望みが最低限必要だったか。

犯罪の描写はそれ程多くない。それは“彼らがどうやって生きているのか“に直結する要素であるため、少々物足りなかっただろうか(映画が地味という意味でも)。総監邸に盗みに入る時に窓を車で豪快に破ったり、使用した車をガソリンで燃やして証拠隠滅する描写には、計画性の低さと犯行の手慣れ感の両方が感じられた。チャドは警察から逃げる際のドライバー担当であり、曰く「カーチェイスにはタバコがいる」。警察に追われている状態でガソリンスタンドに停車し、仲間にタバコを買いに行かせるのだから、筋金入りのヘビースモーカーである。

タイソンとミニの二人が学校から消えたと思ったら、警察が保護(≒誘拐)していたという酷い展開。子供たちを取り戻したチャドたちが屋台でフライドポテトを食べているのだが、なんとミニがコーラを掛けている。見た目はイギリスでは定番らしいモルトビネガーに似ているが、コーラである。「それはありなのか……?」と困惑したが、考えてみればチップスとコーラの相性は良い。それが“浸して食べる”という行為を肯定するのかは不明だが……。これは試さないかな。

ミッション:インポッシブル』シリーズで“頭の切れる”ソロモン・レーンを演じているショーン・ハリスが、“頭の弱い”半ケツ男ゴードン役なのが印象的だった。チャドは子供に有害なゴードンを嫌っているが、コルビーは彼を受け入れようとする懐の深さを見せる。犯罪一家のセーフティネットとしての側面である。明らかに“知識”を欠き、悪人にしか見えないコルビーだが、彼だけが経験から理解していることもあるのだろう。

アウトサイダーズ(字幕版)

アウトサイダーズ(字幕版)

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