オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ペイン 魂の叫び』

Leave, 84min

監督:ロバート・セレスティーノ 出演:リック・ゴメス、フランク・ジョン・ヒューズ

★★

概要

悪夢に悩む作家が死んだはずの兄と再会する話。

短評

スリラーとしては盛り上がりに欠け、衝撃的なはずのオチにも新鮮味のなかった一作。序盤の引き込みが悪くなく、短い作品なのでその勢いで最後まで観られた。オチ自体はよくある“どんでん返し”なのだが、すんなりと、そして心地よく納得できる程度には上手く辻褄が合っている。また、その背景となる部分は魅力的だったので、もっとドラマの面での掘り下げがあってもよかったのではないかと思う。上出来だったとは思うが、面白かったとまでは思えない。ブライアン・クランストンがちょい役で出演していた。

あらすじ

六ヶ月の間、毎晩同じ悪夢に悩まされている作家のヘンリー。執筆も長期に渡って滞っていた彼は、妻エミリー(ヴィネッサ・ショウ)を家に残し、一人別宅に籠もって原稿を書くことにする。その道中、彼は怪しい男に出会うのだが、なんと男は21年前に死んだはずの兄クリスであった。混乱しながらも和解し、共に別宅へと向かった二人だったが……。

感想

悪夢に悩まされている主人公の前に怪しい男が出現するという第一のスリラー。その男が死んだはずの兄で、どこか様子が可怪しい……という第二のスリラー。スリラーとして二段構えの構図であり、一度安心させておいて……という構成になっている。

第一の部分は、クリスは確かに怪しいストーカーのようだが、何も危害を加えてくる様子はなく、むしろヘンリーの方が被害妄想に陥っているかのように見える。ドライブ中に煽り運転されて、その運転手と思しき男がダイナーにいて、しかも店員が店にいない。これは“この手のスリラー”の定番を抑えた描写で、クリスが“ヤバい男”感を漂わせているが、彼は兄なので何も起こらない。

何も起こらない……からの第二の部分。思い出話に花を咲かせつつ、クリスお手製のマカロニチーズに舌鼓を打つ。ここでクリスが料理に箸をつけていないので(アメリカなのでフォーク)、ようやく“ヤバい男”が始動したことが分かる。ドキドキである。翌朝、ヘンリーが腹痛で倒れ、「この後どうなってしまうのか?」「クリスの目的は何なのか?」「クリスの正体は?」とスリラー方向への期待が高まるのだが、短い映画なのですぐに畳みに掛かってしまう。これ自体は物語の性質上仕方がないものの、スリラーとしての盛り上がりに欠けるとオチとのギャップが生まれないため、どうしても評価は下がる。

「悪夢に悩む男の前に21年前に死んだはずの兄が現れて……」という時点で察しの良い人は予想できるだろうが、クリスはヘンリーが創り出した存在である。そんな兄がいる世界は、夢オチである。しかもスリラーに呼応するかのように、こちらもある意味では二段構えとなっている。“本編”の部分が夢であるため、その中で主人公が見る悪夢が“夢中夢”となっている。

邦題『ペイン 魂の叫び』、原題『Leave』を併せれば、痛みに苦しむ男が現世から“Leave”する話であると分かる。ヘンリーが、ちょうど悪夢を見始めた六ヶ月前に胃ガンの手術をしたという台詞が出てくるので、フェアな伏線が張られていたと言えるだろう。電話が通じたり通じなかったりだったのも、ヘンリーの状態によって妻の声が届いていたりいなかったりの演出だったか。

“現実”のヘンリーは昏睡状態で助かる見込みはなく、介護する妻を苦しませるだけの死を待つ身である。そんな彼が“夢”の中で無意識に兄を創り出し、自分に死を理解させる役目を負わせる。その兄と悪夢(=夢中夢)について語り合い、その意味と自分が夢の中にいることを理解する。そして、兄が“夢”ヘンリーを夢の中で殺してしまうことで、“現実”ヘンリーが死を受け入れ、遂に逝くのであった。夢中夢の存在がヘンリーに死を考えさせる役目を果たし、同時にオチへの伏線となっている。これは上手い。

スリラーと夢の両方が二段構えとなっている構成は面白かったし、結末にも納得できるのだが、いかんせん盛り上がりに欠ける。しかし、導入部から観客がスリラーを期待しようと、最低限の描写以外を加えると話が破綻してしまう。それならば兄との会話をもっと掘り下げ、観客もこちらにより注目すべきだったはずなのだが、スリラーだと思って映画を観ている以上、彼がどんなに良い事を言っても「怪しい……」としか思えないのである。当然注意はその“次”へと向かう。話の構図が魅力的な一作ではあるが、構造上の欠陥も抱えていたと言えるか。

ペイン 魂の叫び(字幕版)

ペイン 魂の叫び(字幕版)

  • 発売日: 2020/07/15
  • メディア: Prime Video