オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ザ・タンク』

The Tank, 85min

監督:ケリー・マディソン 出演:マーガリート・モロー、ジャック・ダヴェンポート

★★

概要

閉鎖環境で471日間、6人で生活する話。

短評

JAXAがバイトを募集していたことでも話題になった宇宙船を模した閉鎖環境での実験を扱った一作。設定“だけ”は好きだった(この「だけ」という言葉を強調しておきたい)。「実話を基にしている」とあるが、実話部分は似たような実験が行われたという点だけだろう(この場合は「Based」ではなく「Inspired」を用いるべきかと思う)。大したトラブルが起こるでもなく、被験者たちの壊れゆく心情が丁寧に描かれるでもなく、最後に無理やり「恐ろしい実験でした」とまとめようとする。退屈な映画である。

あらすじ

火星での生活を想定し、南極に設営されたICE-SAT5内での閉鎖環境実験が行われる。メンバーは、元パイロットの隊長ウィル、地質学者ジュリア(マーガリート・モロー)、医用生体工学者ルーク、社会学者兼人類学者トム、医学博士ネリー(アンナ・リース・フィリップス)、元海兵隊員デーンの6人。実験は宇宙計画史上最悪の惨劇に終わってしまったが、果たして被験者がタンク内で過ごした471日間に何が起きたのか。

感想

最初は「“人が狂う系”と“心霊系”のどちらだろう?」と思いながら観ていたが、普通に前者である。しかし、一応は被験者も狂うものの、どちらかと言えば観察する側の方が狂っているのではないかと思われる程にガバガバな実験である。更に言えば、この詰めの甘さで映画化を進めてしまった制作者たちこそが本格的に狂っている。

トムのチョコが消え、敬虔なルークが神を信じぬデーンと喧嘩する。停電によるストレステストに混乱し、被験者たちは徐々に孤独に悩みはじめる……のだが、特に大きな問題もなく最終日を迎える。「え、何だったの?」という戸惑いを抑えられないところで、ルークが「俺たちは騙されて火星にいるんだ。出たら死ぬぞ」と自家製銃で他の被験者たちを脅迫する。終盤に至ってようやくスリラーが始まるのである。力技が過ぎるだろう。狂わせるなら実験中にちゃんと狂わせろよ。

この展開の強引さもさることながら、やはり最も酷いの実験責任者のベイカーである。火星計画なんてそもそもなく被験者の人選が杜撰という点までは映画的にギリギリOKだとしても、実験対象をまともに観察していない。これではそもそも実験の意味がないし、実験にすらなっていない。停電以外の部分は、ただ被験者をタンクに放り込んで放置しているだけである。

ネリーがデーンの部屋に忍び込んで交わるシーンがあるものの(なお、デーンは早漏。「女だってイキたい」はもっともな主張だが、「コントロールして」と言われてできるなら早漏じゃないだろう)、まともな実験であれば通路に監視カメラがあるはずなので忍ぶ意味はない。発作を起こしたトムが「報告しないで」とウィルに頼むのも無意味なはず。ルークが銃を手作りしていても止めないし、彼がジュリアを撃っても不介入。脚を怪我したデーンが「このままは菌が心臓に達して死ぬ」と切断を始めても無視である。

しかし、ベイカーに負けず劣らず被験者たちも阿呆である。ベイカーからの「悪天候でお迎えは延期」というメッセージが最終日の三日前に来ていたことになっているが、気付くのは当日。互いに不干渉かよ。これでは観察者が興味を失うのも無理はない。停電で酸素が減って焦っている時には「酸素排出量の多い植物を集めろ」と悠長なことを言うし(設備が故障しても南極なら外に酸素があるだろう)、火星は無重力ではないのに女性二人が“無重力ハイタッチ”するしで、人選に問題があったという設定には忠実だったか。

「実験の影響で被験者が狂う」という展開を描けておらず、「狂った」という結果だけが提示される。また、「杜撰な実験が原因の悲劇」と言うには“実験”としての性質が極めて弱い。ただ全員が阿呆なだけである。観察側の不作為が原因のようでもあるが、査問会では「やり過ぎ」だと責められていたりする。どっちだよ。ちゃんとやれよ。質感は安っぽかったが暴風で実際に横転させられるセットをちゃんと用意したのだから、閉鎖環境という設定から逃げずにソリッド・シチュエーション・スリラーとして勝負してほしかった。

ザ・タンク(字幕版)

ザ・タンク(字幕版)

  • メディア: Prime Video