オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『レッド・ファミリー』

붉은 가족(Red Family), 99min

監督:イ・ジュヒョン 出演:キム・ユミ、チョン・ウ

★★★

概要

南で暮らす四人家族は北の工作員

短評

シチュエーション・コメディみたいな出だしとは対称的に悲痛な展開が待っている韓国映画。設定が抜群なだけに正直に言えばもっとコメディとしての側面も見てみたかった気もするが、主人公たちの置かれた悲惨な境遇には胸が痛んだ。偽家族と対照的な存在として描かれる隣人一家を阿呆な連中だとバカにしていたが、一見不幸に思える彼らの生活ですらも偽家族にとっては決して叶うことのない憧れの対象であるという悲し過ぎる事実が、家族という存在を観客に考えさせ、胸を抉る。

あらすじ

妻スンへ(キム・ユミ)、夫ジュホン、娘ミンジ(パク・ソヨン)、義父ミンシクの四人。彼らは一見仲の良い四人家族に見えるが、実は寄せ集めで家族を演じている北の工作員なのである。班長スンへの指揮の下、上から指示を受けて脱北者を殺害し、隣人一家の資本主義的堕落を非難して暮らす四人だったが、工作員としての生活に疲弊していた。しかし、祖国や本当の家族を想う彼らに任務を止める術はない。

感想

レストランで「お義父さん、あ~ん」とわざとらしくアピールし、儒教文化を過剰に意識した理想の一家を演じたかと思えば、帰宅するなりスンへが「ミンシク同志!さっきのは何だ!」と老人を厳しく叱責する。彼女の姿は三十郎氏のイメージする北朝鮮軍人そのもので、外とのギャップでひと笑いできる。また、喧嘩ばかりで阿呆な隣人の姿や暗殺に針金を用いるというアナログ感も笑わせてくれるのだが、コメディ路線は最初だけ。金正恩を巡る隣人一家との議論もコミカルではあるものの、工作員もまた工作員に監視されているという設定をもって一種のサスペンスと化す。

「隣の一家が実は北の工作員でした」という設定にこの滑り出しだと、エリート工作員たちが徐々に心変わりする展開を予想するが、一家は最初から自分たちの活動に疑問を抱いている。というのも、四人は家族を人質に取られた状態で任務に従事しており、この道20年のミンシクなんて息子と会えないままガンで死にそうになっている。ジュホンは暗殺初心者で殺害を躊躇い、ミンジは祖国の人権問題を案じる。その上、スンへも班長として厳しい姿を演じているだけだったりする。北から送り込まれたばかりの工作員たちが祖国とのギャップに戸惑うコメディにはなりえないのである。

そんな規律正しい偽一家とは対照的な存在が、“資本主義の限界”たる隣人一家。金にだらしのない妻(カン・ウンジン)、妻と金のことで口論ばかりの夫、いじめられっ子の息子、気を揉む老いた母。どこからどう見てもダメな人々だと思っていたのだが、これが予想外な展開を見せる。彼らが改心するわけではなく、そんな能天気に暮らせること自体が非常に恵まれているのである。

ジュホン一家の脱北と彼を救おうとしたスンへの失態により、工作員一家は監視員に捕らえられてしまう。死を覚悟した彼らの行動は、なんと隣人一家の喧嘩を再現するというもの。やっていることはギャグでしかないのに、とても切なくて胸が痛む。喧嘩ばかりで仲の悪そうな隣人一家ではあるが、たまに仲の良い姿も見せている。たとえ阿呆であろうとも、誰に咎められることなく好き勝手なことを言い合える当たり前の環境──家族と一緒に暮らせること自体が幸福なのである。工作員一家は本当の家族と喧嘩したくてもできなかったのだから。

この寸劇の中で「互いを敬えば喧嘩せずに済む」という言葉が出てくるのだが、これは南北関係についても同じことが言えるだろうか。互いに対する敬意だけで全面的な解決へと導かれることはないだろうが、融和への入口となる最低限の条件ではある。

本作の非常にユニークな点は、偽一家が本物の家族のような繋がりを得るというありがちな展開と並行して、姿の見えない本物の家族の存在が常に意識されていることである。彼らの置かれた複雑な境遇を象徴している。ただ一緒に過ごして仲良くなるのではなく、「本当の家族に会いたい」という切なる気持ちを共有することで、任務としての偽一家とは異なる疑似家族としての性格を獲得する。しかし、彼らの気持ちが通じ合うことは決して感動的ではない。悲劇そのものである。ワイヤーで無理やり繋げられてしまった通りの繋がりなのである。

レッド・ファミリー(字幕版)

レッド・ファミリー(字幕版)

  • 発売日: 2015/04/02
  • メディア: Prime Video