オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『68キル』

68 Kill, 95min

監督:トレント・ハーガ 出演:マシュー・グレイ・ギュブラー、アナリン・マッコード

★★★

概要

気弱な男が女たちに振り回される話。

短評

猟奇的な彼女と気弱な彼氏の物語である。本作はバイオレントかつコミカルな犯罪スリラーなのだが、一種の男女逆転構図みたいな話になっている。暴力的な女たちに支配されたり振り回されてきた男が自立する展開にはそういう意図が感じられるが、そのクレイジーな女たちが非常に魅力的というのが悩ましいところ。「これも悪くないじゃん」みたいな気がしなくもない。また、基本的には非常に阿呆な映画なので、ジェンダーについて一切考えなくても頭を空っぽにして楽しめる。

あらすじ

娼婦の恋人ライザ(アナリン・マッコード)の尻に敷かれている気弱なチップ。ある日、彼が仕事を終えて帰宅すると、銃を持ったライザがとある計画について話しはじめる。その内容とは、彼女の顧客ケンの金庫に6万8000ドルあると判明したため、今晩盗みに入るというもの。警備も子供もなし、誰も傷つけないはずの約束だったが、盗撮ビデオを観ながら自慰するケンを発見してライザが殺害。ついでに彼の妻も殺害。更にヴァイオレット(アリーシャ・ボー)という女が家にいて、ガソリンスタンド店員のモニカ(シェイラ・ヴァンド)も巻き込んだ混乱へと発展していく。

感想

どんどんヤバい奴が出てくる映画である。“思いがけない事態に陥った”という状況の面白さがコメディ方向に炸裂している。ケンの家には大量の剥製があり、その雰囲気から「こいつはもしかしてヤバい奴なのでは……」と思ったら、ライザが何の躊躇いもなく喉を掻っ切る。客とモメてストリッパー廃業を余儀なくされ、恋人の首を締めながら交わるのが好み(右手を首に、左手を胸に置いて、左斜め後ろのアングルから映らないように左腕で巧みに隠している)のサディスティックな美女だったが、想像の上を行くパンクな女性だった。

しかし、彼女の兄ドゥエインは更にヤバい。彼の部屋の雰囲気は完全にホラー映画のそれなのだが、ケンのように見かけ倒しではい。引きこもり系のヤバい男ドゥエインは、女性の解体と撮影を趣味にしている。“人を殺すのが平気”な妹の上を行く“殺人を愛する”変態である。ケンの家に居合わせたヴァイオレットを兄に売ろうとライザが拉致し(彼女をトランクに入れる時のプリケツが最高)、「これはもうついていけない」とチップが逃げる。

ヴァイオレットといい感じになったと思ったら、逃げた先でもモニカらのヤバい集団に出会い、更には殺人兄妹の追跡まで受けるという踏んだり蹴ったりである。そんな連中が最後は一堂に会するのだから、とってもバイオレントでグロテスクな展開が当然に待ち受けている。とりわけいかにもヤバそうなドゥエインが本当にヤバい姿を改めて披露した時には笑いを堪えられなかった。三十郎氏は美女の顔についた返り血の愛好家だが、その魅力とは全く別の意味で彼も返り血が似合っていたと思う。薄らハゲなのに長髪のデブというのは、どうしてこんなにもシリアル・キラーらしく見えるのだろうか。彼がモニカたちを見て「かわいいね」と発言した時の悪寒がヤバい。

気弱で優しいチップがどうしてこんなことになってしまったのか。全ては女性器が原因である。彼の同僚クリントは、「全ての過ちの原因は、男を惑わし判断を誤らせる女のアソコだ」「間違った使い方をすると破滅を招くし、正しい使い方でも同じ」と忠言する。この発言が出てきた時には単なるギャグだと思ったが、終わってみれば彼の言う通りであり、全てを片付けて金を手に入れたチップがエンストで困っている女性を無視して終劇となる。よくある「男なんてもうこりごり」エンドの性別逆転バージョンである。モニカの居場所を聞き出そうとしたチップがエイミー(ハリー・グレース・ブラッドリー)から口淫を要求されるシーンでも逆転構図が分かりやすく表現されている。

これが男女逆転していないタイプであれば、「男はクソ!」でスッキリと終わるのだが、本作に登場するバイオレントな美女たちを「クソ」の一言で片付けることは不可能である。たとえクレイジーであろうとも(特にライザが)セクシーで魅力的であることは否定できない。ヴァイオレットが“凶悪な女たちばかりの中にあって貴重な善人”として描かれているが、三十郎氏は良い子ちゃんな彼女よりも意味不明なライザに惹かれる。兄がドゥエインでさえなければ彼女と一緒にいたい。

これは暴力的な男から離れられない女が一定数いることの裏返しと捉えるべきだろうか。それとも支配的な女たちがこれほどに魅力的ならば、男は大人しく尻に敷かれて振り回されておけばよいと捉えるべきだろうか。いずれにせよ、過ちを避けたいのならば「アソコ」を避けるより他にない。関わらないのが一番なのだ。……おっぱいはセーフかな。

タイトルの「68」は、68人も死ぬわけではないので「6万8000ドル」に掛かっているのだと思うが、この金額にした意味が何かあるのだろうか。「68」に意味はなくて「kilo」を「kill」に掛けたのか。ちなみにランボルギーニ代である。現金で買うのがアメリカらしさか。ランボルギーニってこの金額で買えるの?

モニカ集団にデブ男とヤセ女(ルーシー・ファウスト)のカップルがいて、見た目そのままに「Fatty」と「Skinny」が役名になっているのが笑えた。

68キル(字幕版)

68キル(字幕版)

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