オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『英国総督 最後の家』

Viceroy's House, 106min

監督:グリンダ・チャーダ 出演:ヒュー・ボネヴィル、ジリアン・アンダーソン

★★★

概要

イギリスが撤退してインドとパキスタンが分離独立する話。

短評

インド独立の“悲劇”を描いた一作。三十郎氏にとってのインド独立と言えばマハトマ・ガンディーであり、彼の影響で「非暴力」のイメージが付随していたのだが、実際には非常に血生臭いものであったらしい。実に恥ずべき無知である。言ってしまえば「全部イギリスが悪い」ということになるのだが、“後始末”がいかに困難なのかがよく分かる。政治家レベルの視点から見る歴史の概略と個人レベルの視点から見る現場の実態がバランス良く描かれており、少々掘り下げは浅い気もするが、状況的に現代と重なるような気もして、とても興味深く観られた。

あらすじ

1947年、インド。第二次大戦で疲弊したイギリスがインドへの主権返還を決め、新総督ルイス・マウントバッテン卿がその任を担う。マウントバッテンは円滑な独立を目指すものの、統一インドを目指すヒンドゥー教徒シク教徒、それに対してパキスタンの分離独立を目指すイスラム教徒の対立は深まる一方だった。やがて対立は暴動や虐殺へと激化し、英兵が帰国済みということもあってマウントバッテンには抑え切れなくなる。時を同じくして、総督付きの使用人として着任したジートと総督の娘パメラ(リリー・トラヴァース)の使用人となったアーリア(フマー・クレイシー)の信仰の違いを超えた恋も難しい状況を迎えていた。

感想

ネルー及びガンディー率いる国民会議派(統一インド派)とジンナー率いるムスリム連盟(分離独立派)。イギリスからの独立は双方共に待望していた悲願のはずだが、実際に独立するとなると、これがどうにも難しい。統一派は分離派を懐柔すべく「ジンナーを統一インドの初代首相にしてはどうか?」などと様々な策を弄するが、「ヒンドゥー教徒ムスリムに従うはずがない」と却下される。そうこうしている内に民衆の対立が深刻化してしまい、「パキスタンを独立させるしかない」という状況が完成してしまう。その裏にはチャーチルの対ソ連政策が関係していたと描かれており、これ自体には客観的根拠がないらしいが、いかにもありえそうなイギリスらしい話だと思う。

分離独立の決定後は急ピッチで作業が進むも、急激な変化は様々な軋轢を生む。インドは初めての弁護士ラドクリフが国境線策定の任に就くも、どう線を引いても問題が生まれる。総督邸内のものを含む資産をインドとパキスタンできっちり「8:2」に分けるも、そもそも無理のある話である(辞書を分ける描写が滑稽さを象徴している)。ジートとアーリアも引き裂かれる。その間も暴動は止まらず、インド独立によりインドがボロボロになっていく。分離独立後も人々の移動に伴う難民化や飢饉が発生し、多くの人が命を落とす。マウントバッテンに「インドとは何か?」と訪ねられたネルーが「国民」と返していたが、イギリスの不始末によりその通り国民が傷つけられるのだった。

ジートとアーリアのメロドラマのような分離独立に伴う混乱や悲劇を見せつけられると統一が望ましかったようにも思えるが、「アメリカの黒人みたいな二級市民にはなりたくない」と独立派ジンナーの弁である。もっともな話だと思う。結局の所、統一インドを望んでいたのは有利な立場を維持できる多数派なのである。ジンナーは「インドが国に見えるのは地図の上だけ」と述べ、パキスタン建国を強く求める。「対立」という問題を解決できないままに統一インドとして独立しても、火種が燻り続けるどころか内戦に突入しかねない。劇中でガンディーが「道理よりも愛」と説いたように宗教の違いを超えて分かり合えないものなのかと悲しくなるが、対立の背景にはそれを利用したイギリスの分割統治があり、やはりイギリスこそが諸悪の根源なのであった。

アメリカの黒人」という言葉が出てくると、本作の状況を現代アメリカに置き換えて考えてみたくなる。多数派の白人がイギリスの如く好き勝手に振る舞い続けたということで、虐げられた少数派の黒人が反逆を起こしている。本作と異なるのは、“イギリス”もまた現地人であり、問題を当事者に押し付けて故郷の島国に逃亡できないという点にある。インドとパキスタンの出した結論は、「分かり合えないから別れる」というものだった。それは一時的な混乱を生んだだけでなく、今なお衝突の火種が燻っている。果たしてアメリカ社会はどのような一手を打ち、いかなる結果となるのだろう。

歴代の総督たちとは異なりインドや使用人に対して理解ある姿を見せて信頼を得るマウントバッテン夫妻。特に妻エドウィナ(ジリアン・アンダーソン)が急進的で理想主義者の改革派なのだが、一見頼もしく思える彼女の姿から、逆に綺麗事や善意だけでは済まない現実も見えてくる。各地の暴動が深刻化し、エドウィナは危険に晒されている使用人の親族を総督邸に呼び寄せることを許可する。しかし、その避難民の数は彼女の想定を遥かに超えており、「助けたい」という純粋な思いだけではどうにもならないのだった。

監督のグリンダ・チャーダは、この混乱を生き延びた女性の孫なのだとか。他の監督作品は『ベッカムに恋して』が有名だが、これもロンドンに暮らすインド系の少女の物語だった。背負っているというか、描くべきものがあるのだな。ラストのご都合主義も、その出自であれば許される気がする。

英国総督 最後の家(字幕版)

英国総督 最後の家(字幕版)

  • 発売日: 2019/02/21
  • メディア: Prime Video