オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『目撃者 闇の中の瞳』

目撃者 Who Killed Cock Robin, 117min

監督:チェン・ウェイハオ 出演:カイザー・チュアン、シュー・ウェイニン

★★★★

概要

買った中古車が九年前に目撃した事故車だった話。

短評

台湾のミステリー映画。一つの事故に対して加害者側と被害者側の双方に謎があり、事故の目撃者である主人公が二つの側面から真相を追いかけていく。その上、それぞれの関係者の証言に嘘が混ざっているとなれば(いわゆる「羅生門効果」)、これはもう混乱必至である。少々展開が強引だったりキャラクターが過剰な部分もありはしたが、よくこの話をまとめ上げたものだと唸らされた。

あらすじ

新聞記者のシャオチーが交通事故に遭って修理工場に車を持ち込んだところ、彼の車が事故車であったことが判明する。気になったシャオチーが懇意にしている警察に事故を調べてもらうと、なんと彼が九年前に目撃した事故の車両であった。誤報が原因で解雇されたシャオチーは、同僚マギー(シュー・ウェイニン/ティファニー・シュー)の助けを借りて更に詳しく事故を調べていく。すると、様々な事実が浮かび上がってくる。

感想

信頼できない語り手だらけの一作なのだが、一言にまとめれば「お前もかよ!」である。て言うか、全員である。嘘つきだらけである。初めは「会社をクビになって暇だから調べ始めたら、謎が謎を呼んでのめり込んでいったのだろう」くらいに考えていたら、よもやの展開である。しかし、語り部によって“語られない部分”に怪しさを感じていたのは事実だし、卑怯な方法で騙された感じはしない。

映画の構成は、過去の事故の一部を最初に提示した上で、現代の捜査パートの合間に同じ事故の情報が追加されるというものである。つまり、主人公が知っている情報の一部が観客に隠されており、後から考えれば彼は当然に信頼できない語り手なのである。しかし、見え透いたウソをつく上司や猟奇的な監禁犯が登場するので、観客は彼らを追う主人公を“正義”なのだと認識してしまう。上手いミスリードである。シャオチーの上司チウが嘘をついている時には「こんなの絶対ウソやん。白々しい」と思ったが、結果的にはそれも上手いミスリードだったことになる。

本作のプロットの“上手さ”は、単に主人公が嘘つきだったと明かされた時の意外性だけではない。彼の嘘の内容が分かった時に何気ない描写の辻褄が合う点である。たとえばシャオチーは若くして社会部部長に昇進しているのだが、これは警察の協力があってのもの。警察の協力には当然先立つものが必要である。その出処が分かれば、「ああ、そうだったのか。だから彼には事故の真相を追う理由があったのか」と納得させられる。そうして事件を追った先にある最後の“怪談のオチ”は実に見事だった。

加害者サイドの世界が狭すぎるのはご愛嬌といったところだろうか。事件を追うはずの記者が……という逆転構図である。美人同僚(ボスと呼んでいるので上司なのか)が上司の愛人というのはありがちな話だが、特筆すべきはマギーの色気である。彼女の酔った時の表情がなんとセクシーなことか。男を手のひらで転がしていそうな空気感が凄いのに、実際にはプライベートで不遇を被っている。男を落とすのなんて簡単過ぎて普通の男では満足できなくなってしまったが故の幸薄……と思っていたが、やはり原因は件の事故だったりするのだろうか。男が運転していれば女が「そんなの気にしない」で済んだりするが、女が運転していたために男の方が気にしてしまうと考えると妙なリアリティがある。それでも秘密の共有者であるが故に二人は離れることもできず、男は逃避のために別の女を求める。これは断片からの勝手な想像に過ぎないのだが、「こう考えると辻褄が合う」となるような含みがあるのも妄想家である三十郎氏の好みだった。

対する被害者サイド。黒髪ショートの似合うアイティン(アリス・クー)の印象が過去と現代で真反対なので驚いた。女性はメイクで雰囲気が恐ろしいまでに一変する。こちらも事件の加害者が別の事件の……という逆転構図になっている。彼女がピッキングを披露したので「大人しそうなのにヤるじゃん!」と思ったら、かつてはイケイケなビッチで、ドラッグをキメて3Pするような女であった。また、過去にも同じくピッキングしたことがあると分かり、これでまた一つ辻褄が合う。

ここで一つ残念だったのは、信頼できない語り手でありながらも一応はシャオチーが探偵役として真相を追い掛けているのに、アイティンとウェイの関係の一部が彼とは無関係に観客に提示されてしまうというもの。シャオチーが彼らの過去とは無関係に消えたアイティンを探すので話は成立するが、ミステリーとしては少々興を削がれる。もっともシャオチーがこの事実を知らずして真相を追い掛けていたことで、贖罪のためなのかアイティンに盗んだ分の小切手を送ろうとしていた辺りも、人間関係の奥行きを感じさせて面白い。

「ところでどうなったの?」と後から言いたくなる点が二つ。一つは、修理工ジーの自殺。状況的にチウに殺されたとしか思えなかったのだが……。もう一つは、四肢切断されたその後が示されなかったアイティン。やはり出血多量で死んだのだろうか。三十郎氏は出てきた時点で死んでいると思ったので、動いて驚いた。

タイトルの「目撃者」は第一義的には事故現場の目撃者であるシャオチーを指すが、加害車両の同乗者も事故を“目撃”しているし、被害車両に乗っていた人も別の事件を“目撃”している。彼らはそれぞれ第三者でもいられたはずなのに、人は欲に容易く負けてしまい、目撃者以上の存在になってしまうのであった。当事者としては本当に「やめときゃよかったのに……」な怪談のはずなのに、それを語る立場に転じた者が笑っているという恐ろしさよ。

目撃者 闇の中の瞳(字幕版)

目撃者 闇の中の瞳(字幕版)

  • 発売日: 2019/03/01
  • メディア: Prime Video