オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『サラブレッド』

Thoroughbreds, 92min

監督:コリー・フィンリー 出演:オリヴィア・クック、アニャ・テイラー=ジョイ

★★★

概要

女子高生が友人と継父殺しを企む話。

短評

アントン・イェルチンの遺作である。それはともかく、三十郎氏の目当てはオリヴィア・クックとアニャ・テイラー=ジョイの二人であり、彼女たちが微妙にプニッとした脚の露出度高めな服装をしていて楽しかった。プロット自体は「ムカつく継父を殺す」というシンプルなものながら、殺人を通じて暴かれる女子高生の本性の部分は割と分かりづらい一作である。殺害実行の方法で上手くオチをつけたかと思えば、物語を総括するはずの最後の手紙で逆に混乱し、EDロール中に頭を悩ませていたらなんとなく腑に落ちたような気がしなくもない。

あらすじ

かつては仲が良かったが疎遠になっていたリリー(アニャ・テイラー=ジョイ)とアマンダ(オリヴィア・クック)の女子高生二人は、家庭教師と生徒という関係で再会する。お嬢様なリリーと明け透けなアマンダは正反対で、初めはギクシャクしていたが、次第に打ち解けていく。リリーが横柄な継父マークを憎んでいると知ったアマンダは、彼女に「殺したいと思う?」と提案。その言葉に強い拒否反応を示すリリーだったが……。

感想

アマンダの第一印象は最悪である。彼女の「大学進学しないで起業しようかな、ジョブズみたいに」「感情がないの」「倫理にとらわれず費用対便益で考えるべき、ジョブズみたいに」などという言葉は意識高い系とイキリオタクのハイブリッド的中二病のもので、思わず「アイタタタ……」と恥ずかしくなってしまう。ちょっとアレなキャラクターで映画自体に対しても拒否反応が出てしまいそうになるが、彼女は本当に感情が欠落していて、冷静かつ論理的で優秀な人物ということになっている。

しかし、感情がないはずの彼女に実際には感情が残されており、そこまで論理的でもないというのが本作の肝だと思う。走れなくなったサラブレッドを自ら殺処分した彼女は、生きる価値のない人間は同じく殺処分されるべきだと考えている。一方で、自らに生きる価値があるのかまでは考慮していない。論理的考察が甘い。アマンダが命の選別を「ナチみたい」と指摘された時に「ナチスは人種に基づいてやった」と茶を濁していたが、基準が何であれ恣意的であることに違いはなく、自身の基準を正当化する反論になっていない。やはり彼女の論理には穴がある。

また、まるでメンヘラのようにリリーに鬼メールしている姿からは、彼女がリリーを強く求めていることが推察される。これでは「感情がない」とは言えない。それまでは練習だった笑顔が最後は自然に出ているのも感情の表出だろう。痛々しいまでのジョブズへの憧れだって感情に他ならない。

無感情かつ論理的なはずのアマンダが実はそうではなかったという事実から導かれるのが、リリーによる継父殺害計画である。リリーは睡眠薬でアマンダを眠らせ、その間に継父を殺し、罪をなすりつけようと企む。彼女は直前で気が引けて計画を自白するが、アマンダは計画を知らされた上で睡眠薬を飲んで眠る。その後はリリーの計画通りである。

このアマンダの行動には二つの理由が考えられる。一つは、リリーに「生きる価値について自問したことがあるか?」と問われたことで、自らが社会から退場しても構わない存在だという“論理的帰結”に達したから。「人を殺してはいけない」という命題を否定した時にも当然この点が考慮されるべきだったが、彼女が論理的一貫性を維持するには「自らが殺されても仕方ない」と認める他にない。もう一つは、自らの犠牲により愛するリリーが救われるのなら、それで構わないと受け入れたからではないか。逮捕されたアマンダは精神病院からリリーに手紙を書き、「夢に出てくる町には人がいなくなってサラブレッドだけが残った」と締めくくっている。かなり抽象的ではあるが、原題『Thoroughbreds』が複数形であることから考えるに、“走れるサラブレッド”のリリーは生き残り、“走れないサラブレッド”のアマンダは自ら殺処分したということになるのだろうか。それとも両者ともにいるべき場所に落ち着いたことになるのか。

清楚なお嬢様ぶっていないがら意外に問題児のリリー(レポートのコピペで反省文)。アマンダの提案からムカつく継父の殺害をボンヤリと考えはじめた彼女が、具体的に行動を起こすのは問題児向け学校への転校を告げられてからである。この弱すぎる殺害の理由が、望み通りにするためなら何だってするという彼女の秘められし残虐さを象徴しているのだろう。無感情論理女の方が冷酷なのかと思いきやの逆転構図である。

果たして彼女がアマンダよりも生きる価値があるのかと言えば非常に怪しいところであり、アマンダの価値判断には彼女への想いが反映されていたとしか思えない。殺人へと仕向けたのも、彼女が望んでいることを理解した上で愛する女の願いを叶える自分を演じたのではないか。実際の犯行についてもアマンダの誘導だったのかもしれないが、三十郎氏的にはメンヘラ描写を理由に受け入れ説を推したい。やはり本作は百合映画である。いわゆるクレイジーサイコレズである。「あら素敵……」感が皆無の百合である。

リリーが継父を殺害しに行き、ソファで眠るアマンダが延々と映し出されているシーンが印象的だった。「アマンダが実は起きているのでは?」という疑問と、「リリーは本当にやるのか?」という緊張感。この二つが混ざり合い、笑ってよいのかどうか分からない絶妙にブラックな空気が漂っている。。

やはりアニャ・テイラー=ジョイはブロンドよりもブルネットが似合う。三十郎氏は彼女の僧帽筋のラインが好きである。そして、やはり美女には返り血が似合う。できれば顔にもかかっていれば……。

サラブレッド (字幕版)

サラブレッド (字幕版)

  • 発売日: 2020/03/20
  • メディア: Prime Video