オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』

Mandy, 121min

監督:パノス・コストマス 出演:ニコラス・ケイジアンドレア・ライズボロー

★★★★

概要

妻を殺された男がカルト集団に復讐する話。

短評

幻想的シリアスを装った狂気のバカ映画。思うに、ニコラス・ケイジという俳優はアクが強過ぎて、全てを陳腐なB級映画化させてしまう嫌いがあるのだが、本作は彼の強烈な個性に負けない狂気的独創性と組み合わせることで相乗効果を生み出していた。サイケデリックなカルトホラーである前半に「なんだこれは……」と唖然としたかと思えば、壮絶な復讐劇であるはずの後半は何故かニヤニヤが止まらない。レフン的な赤い映像の狂気を上回る怪演が全てを飲み込んでいく怪作である。地獄の釜から飛び出しかのような本作を目の前にした観客は、木星の嵐の目に対する地球のようにちっぽけな存在に過ぎない。

あらすじ

森の奥で暮らすレッド(ニコラス・ケイジ)とマンディ(アンドレア・ライズボロー)。静かに暮らす二人だったが、ある日、マンディがカルト集団に目をつけられてしまい、拉致され、レッドの目の前で焼き殺されてしまう。怒り狂ったレッドは、カルト集団や彼らに協力するバイク集団“ブラック・スカルズ”を一人、また一人と殺害していく。

感想

舞台が1983年なので、カルト集団は70年代後半に滅んだヒッピー文化の残骸だろう。サイケデリックな映像と音楽の力で“ヤバそうな集団”を演出しているが、実態は単なる阿呆どもである。拉致したマンディにも幻覚剤を飲ませて(ハチの針を刺すという凝った演出付き)教祖様が“ご本尊”を開チンするものの、彼女に爆笑されてショックで泣く辺りにショボさが極まっている。ブラック・スカルズは『マッドマックス2』と『ヘル・レイザー』を組み合わせたような外見で、まるで地獄から召喚されたかのような登場である。しかし、見た目は凄くて、エイリアンみたいな声を出すが、これまた実態は単なる人間なのである。

対するレッドは“伝説の武器”みたいな斧を自作し、“死神”と名付けたクロスボウと共に連中に立ち向かっていく。こちらもニコラス・ケイジの顔芸効果で邦題の通りに地獄の戦士みたいになっているが、単なる人間である(邦題の「ロード」はブラック・スカルズの外見から『怒りのデス・ロード』を模したのではないか)。地獄の谷みたいな場所を舞台に、異世界や超常的存在を感じさせ、もの凄く大げさに復讐譚を描いているが、やっている事自体は人間が人間を殺すだけである。この壮絶なミスマッチ。しかし、ここまでの振り切れた演出と演技の力があれば、それが単なるこけおどしに終わらないことを証明している点に凄みを感じるのである。やり切るって大事。

マンディを殺害され、虎柄のTシャツに白ブリーフという姿で慟哭するレッド。シリアスな笑いの頂点である。このシーンの前に“チェダー・ゴブリン”なるゴブリンがマカロニチーズを吐き出すというシュールなCMがテレビで流れる(ブラック・スカルズが見ているポルノが同じ映像のループなのもシュール)。陰惨な復讐劇を装っているが、やはり豪快にフザケている。中二病的で格好いいのかダサいのか分からない謎の武器もそうだし、ジェイソンさながらなチェーンソーでの対決にも笑いを堪えられない。復讐の最中にレッドが「お気に入りのTシャツを裂きやがったな!」とキレるのにも大爆笑である。

そんな笑ってしまうシリアスの暴走に呼応するかのようにバイオレンス描写も過激化の一途を辿る。カルト集団も、映画自体もラリっているが、レッドも謎の液体を舐めてトランス状態になる。顔が融け、宇宙が爆発する。そんな幻覚に負けてはいられないとばかりにレッドの表情は常軌を逸し、尋常ならざる血液が吹き出し、斧が宙を舞い、顔が潰れる。間違いなくグロい。そして陰惨である。それなのにやっぱり笑ってしまうって一体どういうことなのだろう。色々と超越しているとしか言いようがない。虎とか何だったんだなんて考えてはいけない。

カルト集団の一人シスター・ルーシー(Line Pillet)が美人である。きっと教祖ジェレマイアの喜び組なのだろう(羨ましい)。お年を召したマザー・マルレーネ(オルエン・フエレ)がかつてはその役目を果たしていたことを考えると、このカルト集団は少人数の割にご長寿組織である。男と老婆の集団にルーシーを勧誘できた時の教祖の喜びは凄まじいものだったはず。だからこそマンディを執拗に狙い、ジョニーを笑われてショックを受けたのではないか。マンディは笑い飛ばしていたが、幻覚剤の効果そのままな印象の勧誘時の映像は、「何か分からないけれど凄いことが起きている」と勘違いしてもおかしくないものだった。実際にそういう目的でLSDを使用したカルトも多いのだろう。

本作は作曲家ヨハン・ヨハンソンの遺作となっている。彼の奏でる壮大で幻想的でヘヴィメタルな音楽が、この狂気のバカ映画をシリアス風に偽装するのに一役買っていた。

マンディ 地獄のロード・ウォリアー(字幕版)

マンディ 地獄のロード・ウォリアー(字幕版)

  • 発売日: 2019/03/19
  • メディア: Prime Video