オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ドラゴンへの道』

The Way of the Dragon, 98min

監督:ブルース・リー 出演:ブルース・リー、ノラ・ミャオ

★★★★

概要

カンフーの達人がローマで同胞の助っ人をする話。

短評

三十郎氏が最も好きなブルース・リー主演作。チャック・ノリスとの伝説的対決、イタリアというロケーションを活かしたコミカルな演出、そして人体の神秘とも呼ぶべきレベルに到達している見事な広背筋。見所満載の一作である。ストーリーは次々に現れる敵をブルース・リーが倒していくだけの単純至極なものだが、その分だけアクションを沢山楽しめるし、ヒーローたる彼への“憧れ”を強く抱かせるような要素に満ちている。

あらすじ

香港からイタリアはローマへとやって来たタン・ロン(ブルース・リー)。父を亡くしてレストランを引き継いだが、店の土地を買収しようと嫌がらせを繰り返すギャングに悩まされていたチェン(ノラ・ミャオ)が伯父に助けを求めたところ、弁護士の代わりが彼が送り込まれたのだった。ガッカリするチェンや従業員たちだったが、ロンは凄腕のカンフーで見事にチンピラを撃退し、彼らの尊敬を勝ち取る。しかし、ギャングが店を諦めることはなく、遂にはアメリカ最強の男(チャック・ノリス)が刺客として送り込まれる。

感想

ブルース・リー映画をはじめとするカンフー映画の評価基準は、映画を観終えて席を立った時に動きを真似したくなるかどうかだと思っている。その意味で本作が優秀なのは、リー演じるタン・ロンが無敵のヒーローでありながらも等身大のヒーローの延長線上にあるためだろう。

武術の腕を披露するまでのロンはなんとも間の抜けたキャラクターである。英語が理解できずに五杯ものスープを注文してコミカルな早食いを披露したり、広場で近づいてきた現地美女(マリサ・ロンゴ)の家に行ったのに裸を見て逃げ出したり(彼女が部屋を離れた時に手持ち無沙汰で蹴りの練習をするのが微笑ましい)、チェンら従業員にもまるで期待されていない。少し格好悪くて優しい青年なのである。

それがチンピラと対峙して武術の腕を披露すると一転。無敵に格好いいブルース・リーである。空手を練習していた従業員たちは中国拳法に転向し、チェンもロンを慕うようになる(この「あら素敵……」とメスの顔になる瞬間が最高に可愛い)。クンたちの「ロンさんマジかっけえ!弟子にしてくれ!」という感情に自分を重ねることができる。劇中に“憧れ”の感情が存在することで、観客も素直に「自分もブルース・リーみたいになりたい!」と思える。

また、ライバル役が体格に勝る西洋人というのも良い。リーは見事な筋肉をしているが、我々アジア人が白人黒人に比べて弱々しい体躯をしている事実は否定できない。そのコンプレックスを吹き飛ばすかのようにロンが最強の白人を打ち負かす。これはやはり気持ちが良い。根底にある自己卑下はどうにもならずとも、気持ちが良いものは良いのである。

この二点においてタン・ロンこそが“我々のヒーロー”だと思えるのである。憧れて当然というものである。「ワチャッ!」と叫びながら蹴りを繰り出したくなって然るべきである。空手の扱いを考えれば日本のヒーローを代表してはいないだろうが、三十郎氏はアジアというより長いものに巻かれることにする。

体術、棒術、ヌンチャク、(銃に対抗する)投げ矢を駆使してチンピラを成敗し、遂に訪れる伝説の一騎打ち。可愛い子猫が見守る中、二人は悠々と準備運動してから対戦に臨んでおり、レストランやギャングのいざこざからは一歩離れての“武術家同士の宿命の決戦”の思わせる。しかも舞台はあのコロッセオ(実際の対決シーンは背景が明らかに“絵”だが)。燃えるではないか。それまでは無敵そのものだったロンがこの戦いではかなり追い込まれており(逆襲に転じる時にそれまでコミカルに使われていた劇伴のメロディが転調するのが格好いい)、胸毛モジャモジャのコルトは本物の好敵手という感じがする。ロンが倒れた相手の顔に道着を掛けるのも優秀な武術家に対する敬意を感じさせるのだった。

ロンが洋式便器に上にうんこ座りしたり、ロン以外がヌンチャクを使うと自滅したり、敵が「マンマ・ミーア!」と言ったりという細かな演出も笑えて好きだが、個人的にはチェンの部屋にいた刺客をロンが撃退し、ドアの外に雑に放置するものが気に入っている。圧倒的な実力差を見せられ、銃を奪われたとなれば、彼は目が覚めてもすごすご退散するしかあるまい。

ロンとチェンがローマ観光するシーンが印象に残っている。ロンはフォロ・ロマーノを「九龍城と変わらん」と放言し、庭園を「土地のムダ使い」と腐す。せっかく可愛いチェンが観光案内してくれているのに素直過ぎる。「香港なら高層ビルを建てて賃料を稼ぐ」という彼の発言に、良いのか悪いのか分からない香港人の精神性が象徴されているような気がした。通りで香港は高層ビルだらけである。

本作の撮影は日本人の西本正が手掛けているのだが、空港等のシーンで明らかなピンぼけ映像がそのまま使用されているのが残念だった。あまり重要なシーンではないので問題ないが、だから撮り直しもしなかったのか。

ドラゴンへの道 (字幕版)

ドラゴンへの道 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video