オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ハンズ・オブ・ストーン』

Hands of Stone, 111min

監督: ジョナサン・ヤクボウィッツ 出演:エドガー・ラミレスロバート・デ・ニーロ

★★

概要

パナマ人ボクサー、ロベルト・デュランの半生。

短評

少々駆け足が過ぎる伝記映画。恵まれない幼少期を送りながらも圧倒的な強さで王者となり、挫折と復活を経験するボクサーの物語なのだが、“挫折”の部分である「ノー・マス事件」について知らなかったためなのか非常にあっさりとしたものに感じられた。また、その後の復活にはパナマアメリカの政治的緊張が関係しているものの、これまた知らない人の死が切っ掛けとなるので、どう反応したものか分からない。いっそのこと挫折と復活だけに焦点を絞り、幼少期や黄金期といった背景は全て回想にしてしまえばよかったのではないかと思う。アラサーの制服JK姿を披露するアナ・デ・アルマスと、彼女のヌードは素敵だった。

あらすじ

1964年。パナマ運河の所有権を巡って激しい反米デモが繰り広げられるパナマで、ロベルト・デュランはボクシングに出会う。路上ボクシングでジムのトレーナーに実力を認められた彼はすぐに頭角を現し、連勝街道を歩む。マフィアとの対立により引退していた伝説的トレーナーのレイ・アーセル(ロバート・デ・ニーロ)は彼の才能に惚れ込み、世界チャンピオンにするべく指導を開始する。

感想

ボクシングについて挫折があるのは、二度目のシュガー・レイ・レナード戦だけである。デュランが無敗のままアーセルが指導を開始し、そのまま無敗でベルトを獲得している。その後、レナードに負ける前にも一度だけ敗戦があるようだが、映画では描かれることなく、連勝に次ぐ連勝と妻フェリシダード(アナ・デ・アルマス)の出産に次ぐ出産という形で軽く流されている。アーセルは「戦略(Strategy)」の重要性を強調し、それがレナード戦の勝利へと結びつくのだが、彼がどれほど凄いトレーナーなのかが伝わってこなかった。「彼なくして王座獲得はなかった」というドラマは存在しない。

そして訪れる一度目のレナード戦。この試合こそがデュランのキャリアの中で最も価値のある勝利であるらしい(レナードは三十郎氏も名前を知っている程度には大物である)。アウトボクシングを得意とするレナードにインファイトさせるためにデュランが仕掛けた場外戦が的中する形となって勝利する。戦略勝ちである。試合後に「あの挑発は戦略だったのか」と気付いたレナードがデュランに再戦を申し込み、そこでボクシング界では有名らしい「ノー・マス事件」が起こる。

このリマッチは悪名高きドン・キングが提示した高額報酬に釣られたプロモーターが無理な条件で契約したものであり、デュランは三ヶ月で20kgという過酷な減量に苦しむ。なんとか軽量をパスして試合に臨んだものの、屈辱に屈辱を返すべくレナードがリングで挑発しまくり、デュランが「ノー・マス(もうたくさんだ)」と試合放棄してしまうのである。これは大変に衝撃的な事件だったらしいが、減量に苦しむ描写もあっさりしているし、恵まれない幼少期がハングリー精神を養ったとしてもボクサーとしては恵まれすぎていて貪欲に勝利を求める姿が伝わってこなかったので、映画を観ただけではそれほど衝撃的に感じられなかった。

その後は、試合後に引退宣言したデュランが復帰試合に勝利して終劇という定番パターンである。しかし、その切っ掛けが、条約の名前に出てきただけで劇中の物語には関与していないトリホス将軍の訃報というもので、事情を知らない三十郎氏には唐突感が凄い。感動の復活劇ともならない。幼少期より反米デモの中で育ち、アメリカ人の父に逃げられたことを根に持っており(後にメキシコ人と判明)、アーセルがアメリカ人だというだけで反発する。パナマアメリカへの複雑な反発感情ありきの一作となっているが、その前提を知らずして映画だけで感情移入できる構成にはなっていなかった。ボクシングも反米感情の描写も全てが駆け足で、表面だけを切り取ったような印象である。“物語”としては明らかに物足りないが、パナマの現代史を簡単に勉強できる点は良かっただろうか。

金髪も似合う麗しのアナ・デ・アルマス嬢。彼女は良家のお嬢様で、しつこくナンパするデュランに「住む世界が違う」と言い放ちながらも、特に困難を乗り越えることなく結婚している。結婚後はお嬢様路線から一転してギャングの妻みたいなファッションになっていくのだが、映画全体が駆け足なので、彼女の心情やデュランとの関係にも深く切り込むことはなかった。彼女はデュランの浮気を目撃して「出ていく!」と言うが、試合放棄に繋がる苦境の一要素として軽く描かれるだけで、その後あっさりと電話での会話だけで仲直りしている。つまらないキャラクターではあったが、清楚な制服姿からビッチファッション、ヌードまで振れ幅の広い姿を拝めて、彼女を見るという本作最大の目的は達せられた。三十郎氏も彼女の小さな運河にタイタニック号を……。

アーセルがセコンドとして発破をかける台詞のリズム感がとても良く、ここだけはデ・ニーロがデ・ニーロらしい存在感を発揮していた印象である。彼がレナードの妻を罵ったデュランを「それはアメリカへの恨みとは関係ない。ただの侮辱」と諌める場面がある。今の世界はこの諫言に耳を貸さずに挑発成功の結果を讃えるのだろうか。

ロベルト・デュランガッツ石松とも対戦したことがある。『ビニー/信じる男』ではビニー・パジェンサの復帰戦の相手として登場している。