オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『セルフィッシュ・サマー ホントの自分に向き合う旅』

Prince Avalanche, 93min

監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン 出演:ポール・ラッドエミール・ハーシュ

★★★

概要

森林火災の被害を受けた道路に中央線を引く話。

短評

しんみり系のコメディ映画。『Á annan veg(Either Way)』というアイスランド映画のリメイクなのだそうである。三十郎氏の中ではドラマにカテゴライズされる一作なのだが、地味に笑わせてくる演出が上手かった。ほとんど何も起きないし、ロードムービーと呼ぶには移動距離も短い。しかし、主人公二人に起こる小さな変化がさり気なく捉えられており、不思議と心惹かれる一作だった。

あらすじ

1987年、中央テキサスで1600棟の家屋を焼き尽くす森林火災が発生する。翌年、アルヴィン(ポール・ラッド)と彼の恋人マディソンの弟ランス(エミール・ハーシュ)の二人は、森で寝泊まりしながら、被害を受けた道路に中央線を引く仕事していた。静寂を愛するアルヴィンとジョニーの奴隷たるランスは反りが合わなかったが……。

感想

物静かなおっさんと性欲を持て余す若者のコンビである。アルヴィンは仕事中にドイツ語学習のカセットテープを流し、ランスはこれに心から退屈している。アルヴィンは自ら望んでこの仕事をしているものの、ランスは“恋人の弟枠”のお情けで雇ってもらっており、女のいない森での仕事に不満を持っている。分かりやすい対比である。

ランスは週末にヤル気満々で街へと向かうが、週明けに森に戻ってくると対比の構図が逆転する。それまでは「静寂を楽しもう」と言っていたアルヴィンが興味津々で「どうっだった?」と質問攻めし、ランスの方が「静寂を楽しもう」と不機嫌に。この展開は笑った。「ああ、ダメだったんだね……」というのがよく分かる。それでもなんだかんだで事の顛末を語るランスの可笑しさだった。ミスコンについての「敗者でも俺には勝者だ」という発言はその通りだと思うが、個人にとっての勝者で満足できない人がミスコンに出場するのだろうな。

しかし、マディソンからアルヴィンに別れを告げる手紙が届き、“静寂の愛好家”が再度逆転する。「お前ら一家は少しの間も一人でいられないのか!(=寝取られ)」「恋人の弟じゃなくなったからクビにしてやる」と対立しつつも、なんだかんだでアルヴィンも事の顛末の語る。こうして二人はなんだかんだで仲良くなるのであった。

そもそも性格の反りが合わないし、(元)恋人の弟と姉の(元)恋人という微妙に気不味い関係である。しかし、森には彼ら二人しかいない。そんな二人が互いの存在と(ほとんど下半身絡みの)会話を通じて、ほんのり自分とも向き合うことになる。孤独を愛しているはずのアルヴィンが恋人から逃げているだけだったり、女を愛しているはずのランスも深い愛や責任から逃げているだけだったりする。一見した姿も、浮かび上がってくる姿もダメ男そのものな二人だが、それでもなんとなく憎めなかった。

基本的な笑いどころは、真剣なのかフザけているのか判別のつかない二人の会話である。ランスがお目当ての女の子と事に至れなかった理由やアルヴィンがマディソンをマッサージ師に寝取られたという件は、ジョークとして聞けば滑稽そのものだが、本人は真剣そのものというのが不思議な笑いを誘う。逆にランスが47才の女性を妊娠させた話なんて完全に笑うところだと思ったのに、こちらは意外やシリアスな空気感を見せる。

会話以外での笑いどころは、ストライキに突入したランスが武器のスパナを見せたのに対してアルヴィンが筋肉を誇示する場面だろうか。その後の追い掛けっ子もアルヴィンの奇妙な走り方が奏功して滑稽だった。彼が釣りのシーンで見せる奇妙な腰振りも地味に笑える動きだった。

焼け落ちた廃屋にいた老女は火災犠牲者の幽霊なのか。それともトラックの老人が呆けているだけなのか。彼女がトラックに乗ってどこかへ行くことを考えれば、アルヴィンとランスの二人もウジウジせずに酔って騒いで忘れて次へと進むのが正解ということになるのだろう(あの仕事は不正解だと思うが楽しそうだった)。それがどうしようもない出来事に対する対処法なのかもしれない。何も起きていないようで少しだけ起きている変化こそが人生の鍵となりうる。