オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『運命のボタン』

The Box, 115min

監督:リチャード・ケリー 出演:キャメロン・ディアスジェームズ・マースデン

★★★

概要

見知らぬ他人が死ぬけど100万ドル貰えるボタンがあったら押しますか。

短評

シンプルな思考実験を壮大な陰謀論へと仕立て上げた一作。意味深に高次の存在を匂わせてみたり、「煉獄」という言葉が登場するので宗教的な解釈もできるのだろうが、基本的には「荒唐無稽な設定を成立させるには更に荒唐無稽な設定が必要」という皮肉を楽しむ映画だと思っている。導入部の強引さからして納得できないし、上手くオチをつけられたとも思わないが、“阿呆な話を至って真面目風に装っているのにとてつもなく阿呆”というが逆に癖になる一作だった。

あらすじ

1976年、ヴァージニア州。 妻ノーマ(キャメロン・ディアス)と夫アーサー、息子ウォルターの三人が暮らすルイス家に早朝の訪問者が現れる。訪問者は玄関先に一つの箱を残して立ち去り、箱の中には赤いボタンのついた装置と一通の手紙が。その日の夕方、手紙に記されていた通りにスチュワードなる顔に火傷を負った男が現れ、「そのボタンを押せばあなたの知らない誰かが死ぬが100万ドルが手に入る」とノーマに告げる。ノーマは迷った末にボタンを押し、スチュワードから100万ドルを受け取るが、彼は「次はあなたの知らない誰かに装置を渡す」と言って立ち去るのだった。

感想

本来はこの導入部がオチになってもよいような単純な話だと思う。100万ドルもらえるけれど見知らぬ誰かが死ぬ。この“見知らぬ誰か”が次は自分になるという時点で綺麗にまとまっている話である。「安易な選択をしてはいけませんよ」という教訓的な小噺である。しかし、次の犠牲者が自分になるのかどうかなんて、ボタンを押す押さないに関係なく主催者の意向次第なわけだし、相当に理不尽な話ではある。おまけに、100万ドルの誘引以外にもノーマたちはボタンを押すように誘導されていたので(教育補助打ち切りとアーサーの試験不合格はスチュワードによるものと鼻血等の描写で分かる)、選択をテーマにしながら実質的に選択肢を奪われた状態となっている(こちらは選択という行為の不自由性を象徴しているような気もして嫌いではない)。

ここで終わらなかったので本編開始である。匿名掲示板に「1億円もらえるけど知らない誰かが死ぬボタンがあったら押す?」というスレが立てば、「そんなボタンはない定期」とレスがつく。しかし、本作には“そんなボタン”が存在するため、“1億円をくれる人”と“死ぬ誰か”も同時に存在する必要がある。前者がスチュワード、後者が前にボタンを押した人ということになるが、更にもう一つ必要となるのが、「どうしてそんなボタンがあるのか」という理由付けである。この理由を実現させるためにSF的でオカルト的で神学的な壮大な物語へと突き進んでいく。本作はシリアスを装っているが、「ここまでやらないと“そんなボタン”は存在し得ない」と示したコメディとして観るのが実は正解なのではないかと思っている。

原作の短編小説では、夫アーサーが死んで保険金が転がり込み、「あなたは本当に夫のことを知っていたんですか?」というオチになっているそうである。現実的かつ示唆的な上手いオチである。しかし、本作のボタンは“高次の存在による人類に対する実験”ということになっており、とにかく壮大路線を邁進する。スチュワードは稲妻に打たれて死亡後に蘇生し、人間の頭に入り込んで操ることのできるようになった超能力者である。そんな彼に操られて(彼も操られている)、ルイス家の周囲の人々──怪しげな生徒、ベビーシッターのデイナ(ギリアン・ジェイコブズ)らをはじめとする皆が集団ストーカーと化す。探偵ごっこをして図書館に行ったら利用者が皆そうだったという場面は、いい感じのホラー映画になっていた。実験対象以外は皆“従業員”で、説明無しの謎の“扉”まで出てくる。そこまでしないと、“そんなボタン”は存在し得ないのである。

本作では利他主義の立場──“ボタンを押さない”を採れば自らの死を避けられるという設定になっているが、これは無理筋だと思う。上述の通り、“見知らぬ誰か”を誰にするのかは主催者の恣意的な選択によるものである。“押せば見知らぬ誰かが死ぬボタン”が存在する限りは常に自分も”見知らぬ誰か”となりうるが、それは本来非常に低確率のはず。それを後から「ボタンを押したんだから責任を取れ」というのは流石に卑怯である。押そうが押さまいが確率的には同じと見せかけ、100万ドルという餌だけを強調し、事前説明なしのペナルティを押し付ける。これは優良誤認表示ではないか。地球では禁止されているぞ、火星人どもめ。

運命のボタン (字幕版)

運命のボタン (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 
運命のボタン (ハヤカワ文庫NV)

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