オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『マーニー』

Marnie, 130min

監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:ショーン・コネリー、ティッピ・ヘドレン

★★★

概要

赤色を見ると発狂する美女の話。

短評

トラウマから犯行を重ねていく悪い美女と、美女に惹かれてしまう男を描いたサスペンス。金髪の美女に惹かれたのは監督も……という裏話もある一作である。トラウマと赤色を恐れる理由が綺麗に繋がっていて、明らかになるとどうでもよくなるマクガフィンが珍しく物語の中心になかった印象である。ヒッチコックはホテルの通路に出てくる客としてカメオ出演しており、カメラに顔を向けることもあって他作品よりも圧倒的に分かりやすい。

あらすじ

ストラット社の金庫から約1万ドルが盗まれる。犯人はマリオン・ホランド──社長のストラットが「美人だから」と惹かれて採用した女性である。そのマリオンは、マーガレットという名でホテルに泊まり、黒に染めた髪をブロンドに戻し、マーニー(ティッピ・ヘドレン)として実家の母を訪ねる。彼女は手慣れた泥棒だったのである。マーニーが次に狙うのはラトランド社。しかし、社長のマーク(ショーン・コネリー)はストラットの取引関係者であり、彼女のことを知った上で採用を決める。

感想

男の歪んだ欲望が滲み出た話である。最後に明かされるそもそもの始まりが「ペド野郎が少女マーニーに欲望して……」というものだし、推薦状なしで彼女を採用したストラットは容姿の細部から服のサイズまできっちり覚えているほどご執心だし(この推薦状の描写からも分かるように、アメリカは実力社会というよりもコネ社会)、きっとマークが彼女が泥棒だと承知の上で採用したのも「美人だから」である。おまけにマークは「知ってたけど恋に落ちちゃった」と、ほとんど脅迫気味に結婚を迫る。マーニーは母から「男は汚らわしい」と教わって育てられたが、その影響がなくとも汚らわしい男ばかりが出てくる話である。ジェームズ・ボンド的二枚目紳士であり、マーニーをトラウマから救い出そうとしていても、それでもなおマークのキャラクターには気持ち悪い部分もあった。「拒絶されると人を病気扱いする」という批判はもっともなものだと思う。

しかし、最も歪んだ欲望を発露させていたのが監督だという笑えない裏話もある。気持ちは分かる。ティッピ・ヘドレンがキリッとしていて嫌らしさのない金髪の似合う美人なのだもの。三十郎氏もブロンド美女の愛好家である。自分が権力者でなくてよかったと思う。ヘドレンの演技の中では、真実が明かされて幼児退行するシーンが印象的だったのだが、あのシーンの声は吹き替えなのだろうか。あれも本人の声なら凄いが、そうでなくとも急に弱々しい表情へと変化するのはなかなかの見ものだった。彼女が脚の折れた馬を見て「殺さなくちゃ!」と狼狽するシーンにはアメリカ文化を感じたのだが、あれは母の脚の怪我と繋がっていたことになるのか。殺処分する対象が違うのは問題ないのだろうか。

マーニーが(暗証番号の管理の甘い)ラトランド社の金庫破りをするシーン。金庫のある部屋と壁を隔てた大部屋で画面が実質的な二分割になっている。最近だと『MAMA』で見たのが記憶に残っている演出である(初出は何なのだろう)。本作では掃除のおばちゃんに犯行がバレるか否かのサスペンス描写で使用しているが、この“観客は分かっているが劇中の人物だけは分かっていない”という構図はコメディでもよく用いられるものである。それを意識したのかは定かではないものの、ハラハラさせたと思ったらコミカルなオチをつけているのがヒッチコックらしかった。

競馬場で「ペギー・ニコルソンですよね?」と話し掛けられたり、マークの義妹リル(ダイアン・ベイカー)がストラットをパーティーに招待したりと、作品全体のテーマと同様に“過去がサスペンスを作る”という状況が多く見られた。

色の演出。映画の冒頭に黄色のバッグがアップで登場する。それに続いてストラットが「金を盗まれた」と話すので、その中に金が入っているという演出である。しかし、マーニーがラトランド社の面接を受ける時には茶髪に茶色のバッグの組み合わせだったので、金を盗んだ段階で金髪に戻ることが示唆されていたのかと感心した。

狩りに出るシーンでビーグルの大群が登場して可愛いのだが、愛玩動物として品種改良されていない狩猟犬は、三十郎氏の知っているビーグルよりも強そうで少し怖かった。

最後に真実を悟ったマーニーがマークに告げる、「刑務所よりあなたのそばがいい……」。そりゃそうだろう。

マーニー/赤い恐怖 (字幕版)

マーニー/赤い恐怖 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 
Marnie

Marnie

  • 作者:Graham, Winston
  • 発売日: 2013/02/14
  • メディア: ペーパーバック