オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『私はゴースト』

I Am a Ghost, 75min

監督:H・P・メンドーサ 出演:アンナ・イシダ、ジニー・バロガ

★★★

概要

地縛霊が成仏を目指して頑張る話。

短評

幽霊視点の心霊ものという斬新な一作。この設定は面白いが、怖がらせる方の視点ではホラーにならないと思いながら観ていたら、ちゃんとホラーになる辺りが良く出来ていた。舞台が屋敷の内部に限定されており、ほぼ一人芝居というアイディア一本勝負のような低予算映画だが、“虚無”の演出のように感心する瞬間もあり、それほど安っぽい印象は受けない。全体としても一部を除けばオシャレ感があり、特にOPタイトルのアップからカメラが引いていくと、クレジットと共に一つの模様となるのが格好よかった。

あらすじ

古風な白い服を着て、広い屋敷に一人で暮らす女(アンナ・イシダ)。起床し、卵を焼き、買い物に行き、バターナイフを振り上げ……という一日を何度も繰り返している。そんな彼女に語りかける声が聞こえてくる、曰く「エミリー、聞こえる?シルヴィアよ。私は霊媒師で、あなたは死んでるの」。自身の死を理解したエミリーは成仏するため、自分が死んだ時の記憶を紐解いていく。

感想

序盤の生活風景を繰り返しているだけのシーンは、とても短い映画なのに挫折しそうになるくらいに退屈である。「……よね?」という声が聞こえてくるシーンやバターナイフを振り上げるシーン等は後で回収されるが、他のシーンは“全く同じ一日を繰り返している”という事実のみが重要となる。従って、行動そのものに意味はないし、見ていて興味深いものでもない。タイトルから彼女が幽霊なのだろうと思って観ていたが、謎の声の演出は一応ミスリードだったのだろうか。

話がぐっと面白くなるのは、シルヴィアの呼び掛けが始まってから。いつも観ている悪霊祓いの映画ならば彼女の視点で描かれるところだが、本作は逆である。「あんた誰よ!」とエミリーの方がビビる。自分が死んだと認識していなければ、これは立派な心霊体験である。ビビるに決まっている。ただし、ここはまだホラーではなく、「因果を解けば成仏できる」というシルヴィア理論に従い、比較的穏やかに記憶を取り戻そうとしていく。

本作が本当にホラーとなるのは、死亡時の記憶を取り戻して遂に成仏かと思いきや……という展開から。エミリーは男に殺されたものと思い込んでいたが、実は犯人が彼女の別人格で、そいつにも納得させなければ成仏できないのである。彼女は別人格を探すものの、彼に襲われることとなる。幽霊が幽霊に襲われるという驚異の設定をもって“普通のホラー映画”として演出が成立する。これはよく考えられたアイディアだと思う。

しかし、別人格の“悪魔”が、青白く全身を塗った全裸で薄らハゲのおっさんなので、どうしても笑ってしまう。そいつがギャーギャー叫びながら追い掛けてくる。それまでは静謐な雰囲気で、屋敷の調度品も素敵だったのに、このビジュアルだけは完全に笑わせにきているとしか思えない。楽しいから好きだけど……、もう少しなんとかならなかったのか。

繰り返しになるが、序盤の繰り返しシークエンスは本当に退屈である。そこさえ頑張って切り抜ければ、短いながらも二転三転する展開が楽しかったり、因果を解いた(と思っている)エミリーが自己の記憶を客観視する映像表現が面白かったりと、しっかり見所が待っている。「人の良さそうなシルヴィアを信じて、成仏を目指して頑張ったら……」からのバッドエンドにも意外性がある。別に埋もれたままでも構わないが、観ても損はしない佳作だった。

私はゴースト

私はゴースト

  • メディア: Prime Video