オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ハリーの災難』

The Trouble with Harry, 99min

監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:エドマンド・グウェン、ジョン・フォーサイス

★★★

概要

森の中で死体を見つける話。

短評

サスペンスの神様が手掛けたコメディ映画。状況的には巻き込まれ型に近いような気もするが、サスペンスの弛緩の部分だけが延々と続くような一作である。“災難”を被る死体の扱いの軽さには驚くばかりだが、“死”に対する考え方さえ変えてしまえば、あらゆるサスペンス映画がドタバタ・コメディに変化しうるのかもしれない。勘違いと隠し事の連続による徒労だけで成立しているという素敵に不毛な一作だった。

あらすじ

森の中で遊んでいたアーニー少年が、一人の男の死体を発見する。少年がその場を立ち去り、次に現れたのは、(禁猟区なのに)ウサギ狩りに来ていたワイルズ船長。死体の身元は、ポケットに入っていた手紙からハリーという男だと判明する。ワイルズは自分の流れ弾が当たって殺してしまったのだと思い、死体を隠蔽しようとするが、ご近所のクレイブリー婦人、アーニーと母ジェニファー(シャーリー・マクレーン。本作で映画デビュー)、浮浪者、読書中の医者が続々とやって来て、一向に作業に取り掛かれない。しかし、彼らにも死体をどうこうしたり警察に行くつもりはないらしい。

感想

死体を埋めてなかったことにしようと決意するも人が邪魔で埋められず、ようやく埋められたと思ったら自分が犯人じゃないことが判明する(アーニーがウサギを持ってきた時点で気付け)。しかし、一度埋めたものを再度掘り起こすと却って怪しいのでそのままにしたら、自称犯人が名乗り出て再度掘り起こす……と思ったら、やっぱり埋めて、やっぱり掘り出して、やっぱり……を繰り返すという壮絶に不毛に話である。

埋めたり掘り起こしたりを繰り返している内に続々と新事実が明らかになると、ミステリー映画のような展開を期待するが、事実が明らかになるにつれて真相に迫ることはない。逆に遠ざからんばかりに死体をぐるぐると取り囲んでフォークダンスでもしているかのようである。関係者全員が阿呆なことばかりしているのに、誰もツッコんでくれないし、止めてもくれない。

ジャンルは完全にコメディだが、ヒッチコックらしいサスペンス演出も確かに存在している。サムが死体の顔を描いたスケッチを保安官代理カルビンが発見して疑われるシーン。掘り出した死体をジェニファー宅に持ち帰り、“綺麗にしている”ところにカルビンがやって来る。「証拠を突きつけられてどうしよう」に加えて、死体を隠していそうなクローゼットの扉が勝手に開くという二つのサスペンス的状況が成立している。

本作がコメディ映画として秀逸なのは、ようやく訪れたそのサスペンスを完全に空転させてしまう点にある。スケッチを見せられたサムは、とぼけながら「絵画っていうのはこういうものなのですよ」と証拠を改竄してみせ、扉が開いて万事休すかと思えば、そこには何もない。「こんなのでハラハラしてるなんてバカみたい」と嘲笑われたような痛快さである。ワイルズが銃を隠して歩くシーンも、描き方次第では緊迫したものになるのだろう。そうしてドタバタしているところに訪れた医者がもたらす超絶に不毛な大団円。「全部無駄でした」というちゃぶ台返しがこんなにも気持ちいいなんて。

ヒッチコックが自身の十八番を逆手に取ったかのような演出はマクガフィンにも適用されており、サムが絵を買ってくれた金持ちに耳打ちした要求を散々引っ張っておいて、重要でもなんでもないというオチをつけている。これにも一本取られた。

死体との出会いのシーンが衝撃の連続である。隠蔽現場を目撃されたワイルズの「どうやら殺してしまったようなので埋めようと思います」に対して、クレイブリーの「じゃあ誰にも喋りません」。この言葉を信じられるなんてどこまで牧歌的な世界なのか(これには理由があるが)。その後、二人は仲良くティーパーティーである(死体を目撃したばかりなのに男を家に招くことになって浮かれるクレイブリー。御年42才の処女疑惑女性)。アーニーに連れてこられたジェニファーは、「ハリーね。寝てるのよ」と息子に告げ、何もなかったかのように立ち去る。サムは、さも当然かのように死体のスケッチをはじめる。これをコミカルと言うこともできるが、軽く、否、派手に狂っているとも言える。

ハリーの災難 (字幕版)

ハリーの災難 (字幕版)

  • 発売日: 2014/02/01
  • メディア: Prime Video