オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『クロール ―凶暴領域―』

Crawl, 87min

監督:アレクサンドル・アジャ 出演:カヤ・スコデラリオ、バリー・ペッパー

★★★

概要

ハリケーンに乗じて逃げ出したワニに襲われる話。

短評

サメやワニといった捕食動物の登場するパニック映画は、パッケージ詐欺の低予算映画が大半を占めており、それ故に“捕食”の瞬間が雑に済まされていることが多い。本作は“残虐描写の旗手”とでも呼ぶべきアレクサンドル・アジャが監督であり、人が食べられて観客が喜ぶようなコメディ路線とは一線を画した本格的ワニ映画となっている。サメ映画のカテゴリーには映画史に残るような傑作が存在し、人気ジャンルとなっているが、本作の登場によりワニ映画にも真っ当な映画が存在しうるジャンルとしての道が開かれた。ちなみにサメも出てくる。

あらすじ

フロリダにハリケーンが迫る。フロリダ大の学生ヘイリー(カヤ・スコデラリオ)は、ボストンに住む姉ベス(モーフィッド・クラーク)から父デイヴ(バリー・ペッパー)と連絡が取れないと言われ、豪雨の中、父の住む家を訪ねる。ところが、父は不在で、家には犬のシュガーだけが残されており、ヘイリーは両親が離婚する前に住んでいた実家に行ってみる。地下で怪我した父を発見し、地上階に運び出そうとしていたら、なんと目の前に大きなワニが現れる。

感想

ワニの登場までがとても早い。唐突と言ってもよい。父の家への道中にワニ園の看板を登場させ、その後は何のタメもなくワニが出現する。パニック映画の90分の尺の有意義に使用するための割り切りだったと思う。こちらは観る前からワニ映画だと認識しているわけで、「何が出てくるのか」という不安で引っ張る必要はない。「ワニがいつ出てくるのか」という不安は、一度出てきた後の方が強調される。ワニと主人公たちとの対決に焦点を絞ったシンプルな構成である。ハリケーンというディザスター映画の要素もあるが、最初の環境構築や“上手くいきそうだと思わせてひっくり返す”というワニと対決させるための“舞台装置としての仕事”に徹している。

Z級サメ映画によく見られるのは“ピョンと飛んでパクッ”というグロさの欠片もない手抜き描写だが、本作のワニの捕食はじっくりである。そして、様々な怖さや痛さを体感できる余裕がある。通行止めを無視して父の家へと向かったヘイリーの様子を見るためにやって来たウェインが食べられるシーンは、腹部にガッツリと噛みつかれていながらも、しばらくは「助けて!」と叫ぶだけの時間が残されている。当然助けられる余裕はなく、周囲の水が赤く染まっていく絶望感である。一方で、控えめではあるものの、父の右腕をもぎ取ったり、混乱に乗じた略奪者の肉体を破壊する直接的な描写もあり、グロへの期待にもきっちり応えてくれる。

対して、ヘイリーに対してだけはワニの攻撃力が極端に弱い。彼女は序盤に脚に噛みつかれても、怪我などなかったかのように平気で動き回っている。これはヘイリーが水泳の奨学金で大学に通うアスリートというタフさ故なのだろうか。彼女は父から「頂上捕食者になれ」と育てられ、「お前ならワニよりも速く泳げる」と煽られる。腕に噛みつかれようがそのまま銃で射殺し、背中に噛みつかれてデスロールを受けているという常人ならばパニックに陥る状況でも冷静に発煙筒を拾って反撃する。潜水可能時間もとても長く、ワニを迎え撃つに相応しい最強ヒロインだった。ただし、セーフゾーンから出てスマホを取りに行き、戻らずその場で電話しだすのは頭が足りていないと思う。彼女の強さとは直接関係ないものの、水泳で飛び込みの構えをとった時に突き出した臀部の逞しさや水着の食い込み、そして日焼け跡が非常にフェティッシュだった。

可愛いワンコのシュガー。犬が登場するだけで“助かってほしい度”が倍増する。そういう意味でも、水没しかけている父の居場所を知らせるという意味でも優秀な存在だった。やはり人類最良の友は犬である。シュガーが泳ぐ後をカメラが水中から追いかけるショットがあり、これはワニ視点となるわけだが、ここでワニは襲ってこない。その直後に「一度大丈夫だと思わせて……」の展開があるのだが、この“スカし方”が非常に上手かった。

犬の他に、助けを求めるヘイリーに気付いた略奪者の男が様子を見に来ようとするシーン。明らかに彼が襲われそうと思わせておいて、後ろで船に残っている女がやられる。この意外性の使い方が上手い。略奪者たちはATMを丸ごと強奪し、彼らの内の一人は店内の商品を物色していたが、大きくて重い機械や食品等を奪うよりも、ギフトカード等を集中的に狙うのが高効率だろう。

クロール ー凶暴領域ー (字幕版)

クロール ー凶暴領域ー (字幕版)

  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: Prime Video