オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』

Birds of Prey (and the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn), 109min

監督:キャシー・ヤン 出演:マーゴット・ロビーユアン・マクレガー

★★

概要

ジョーカーと別れたハーレイ・クインが自立する話。

短評

DCEUの第8作。ヴィランをヒーローに据える構図は『スーサイド・スクワッド』と同様だが、本作は同作以上にヒーロー映画としての性格を強めている。男と別れて、「一人じゃ何もできない」と言われるのが悔しいから自立を目指すというよくある話にフェミニズムを乗っけた結果、主人公がハーレイ・クインである必要があるのか疑わしいレベルの“ヒーロー”となってしまった。彼女が元々持っているヴィランとしての性質は、せいぜい「恐怖で街を支配する男の巨悪に比べれば、女の多少のオイタくらいは大したことない」と彼女の行動を正当化できる程度のものに留めている。この単純な二項対立でしかない演出は幼稚だと思うが、三十郎氏のような男性が楽しめなかったのは、フェミニズム映画としては正解なのかもしれない。

あらすじ

ジョーカーとの破局を迎えたハーレイ・クインマーゴット・ロビー)。彼の庇護下にあった時には誰も手を出せなかったが、そうでなければ彼女に恨みを持つ者は無数にいる。逮捕を狙う警察やゴッサム中の悪人たちが襲いかかってくる中、街を支配する大物マフィアのローマン(ユアン・マクレガー)に捕まり、彼の手下が盗まれたダイヤモンドを探すことに。

感想

「(ハーレイを)完全にヒーローにしてしまったな」と感じるのは、ダイヤを盗んだカサンドラを略取するために警察署を襲撃するシーンである。彼女はショットガンと見せかけた玩具の銃(殺傷力はないが攻撃力は有り)を持っている。頭のネジが外れてしまっているのが魅力のキャラクターだと思っていたが、人が死なないように配慮するような“普通の人”である。色とりどりのスモークや紙吹雪が噴出する弾丸の演出は綺麗だったが、キャラクター性の面では“普通のヒーロー映画”でしかないことを象徴している。彼女が殺した人はせいぜい三人くらいだっただろうか。カサンドラの腹を割かずに下剤を飲ませる辺りにも彼女を“ヒーロー”として演出するための善人性が強調されており、悪者でありながら善人を演じてしまう両面性を持った複雑なキャラクターとは言い辛い。甲高い声で話し、ケラケラと笑うだけでは、狂人足りえない。

時間軸を切り刻み、複数の女性キャラクターを絡ませることで複雑な展開にしてはいるが、結局行き着く先は「女が団結して男と戦う」である。本作の女性映画として性質は、冒頭のモノローグで「手柄は全部ジョーカーのもの」と発言する辺りからも明白なので、単純な話を引き伸ばしただけという感じがする。女性チームを標榜しながらハーレイ以外の女性キャラがほとんど掘り下げられないのも原因だろう。コメディの演出がくどいこともあり、物語の隙間を埋めるだけの中盤はかなり退屈した。

扱いが雑なのは“ヴィラン”も同じで、“顔剥ぎ変態野郎”がブラックマスクなるスーパーヴィランになるのかと思ったら、“自分をスーパーヴィランだと思い込んでいるただのおっさん”レベルだった。ただのおっさんなんかにビビっていたハーレイって……。ハーレイが「子供を守る」という既存の善悪の観念に縛られていなければ、特に戦う必然性もないキャラクターである。ローマンのクズっぷりを象徴するシーンとして、自分が笑われたと勘違いして女を辱めるというものがある。無関係な話に首を突っ込んで被害者ぶるのに男も女もないだろう。ネットで声を上げる“被害者”の大半はこれである(この数の多さに覆い隠されて、本当にいるはずの被害者の声がオオカミ少年化されていると思う)。三十郎氏が本作を批判しているのも……。

敵がショボければ、ハーレイにも特殊能力はないため、アクション・シーンは単なる乱闘である。戦いの中でキャラクター性を演出する象徴的な動きや、これといったインパクトのあるシーンもなかった。

出番がほとんどなかったのは残念だが、ハイエナのブルースが「オスだから」という理由で死なずに済んで良かった(ブルースという名前なのでオスだと思ったが、性別は明示されていただろうか)。街で唯一の味方だった台湾人のドクにも裏切らせるくらいには、男が男というだけで徹底的に悪役扱いされている映画である。ここまで来るとミサンドリーである。抑圧されてきた女性による復讐を描くのであれば、その相手は彼女の手柄を我が物としてきたジョーカーでなくてはならないのではないか。彼と別れたから悪事もやらなくなったと解釈するのはさすがに……。

EDロール後のアレは完全にパクリでしかない上に面白くもない。ローラーゲームはそのまま『アリータ』か。『シャザム!』に続いて遊園地というのも芸がなかったが、こちらはユニバースを統括するプロデューサーの問題。

「それでもハーレイ・クインの魅力だけは否定できない」と言いたいところなのだが、本作の彼女はそれほど魅力的とは言えない。ショートパンツとハミ尻の組み合わせが回避されてしまったのは映画の意図を考えれば理解できるものの、メイクも『スーサイド・スクワッド』から変更したのだろうか。明るいシーンが多いこともあり、白塗りのバカ殿感が際立っている。また、“主役の内の一人”くらいの出番であれば「ウザいけれどそれが魅力的」と感じられるが、本作のようにモノローグまで一人で喋り通しだと普通にウザい。

本作や『スーサイド・スクワッド』のように“ヴィランをヒーローにした”映画の失敗を見ると、『ジョーカー』が“ヴィラン映画”としていかに傑出していたのかを再認識することになる。状況さえ整えば、ヴィランヴィランのままでヒーローとして受け入れられうる。同作はその事実を鮮烈に示してみせたが、本作はヴィランからヴィランの性質を奪うことでしかヒーローとして演出できていない。

ほとんど文句ばかりだが、気に入ったシーンはエッグサンドの調理風景。『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』のチーズサンドと双璧の飯テロである。

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(字幕版)

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(字幕版)

  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: Prime Video