オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ザ・ブリンク/史上最低の作戦』

The Brink

監督:ジェイ・ローチ他 出演:ティム・ロビンスジャック・ブラック

概要

パキスタンでクーデターが起きて核戦争の危機が発生する話。

短評

現実にありえそうな危機的状況を目一杯ふざけ倒して描いた不謹慎なブラック・コメディ。徹底的にバカばっかりやってる純然たるコメディなのに、大筋から小ネタに至るまで「ちょっとありうるのかも……」と思えてしまうのが肝である。「笑えるけれど、笑ってていいのか……」となるシニカルさが非常に魅力的なドラマだった。1話30分弱の全10話構成となっているので、床に就く前に本作でひと笑いしておけば、鬱々とした妄想で眠れなくならずに済む。

あらすじ

パキスタンでクーデターが発生。精神異常者の軍人ザマーンが政権を奪取する。この混乱に乗じてパキスタンから核兵器が流出したら大変とホワイトハウスも大慌てである。タカ派の国防長官ピアースはイスラエルの先制攻撃を煽るが、ハト派国務長官ウォルター(ティム・ロビンス)は親米派による再クーデターで事態の収集を図ろうとする。在パキスタン米大使館の下っ端職員アレックス(ジャック・ブラック)は、パリへの栄転を狙ってウォルターのために奔走し、紅海の空母にいるパイロットのジーク(パブロ・シュレイバー)は、薬の種類を間違えてハイになった状態で出撃する。

感想

ホワイトハウス、現地大使館、現場米軍の三つの視点から描かれる複雑な構成となっているが、メイン三人の尋常ならざるダメ人間ぶりである。ウォルターは、アジア人に殺される妄想で興奮する変態大臣であり、アジア人娼婦ジャスミンマーラ・レーン)と首絞め(られ)プレイをし、ホテルのフロント女性ハイジ(Nadia Dassouki)を政府専用機のトイレに連れ込み、尿管結石ができ、と下半身が大忙しである。

ジークの下半身も忙しい。薬剤師の妻アシュリー(メアリー・フェイバー)に送ってもらったドラッグを船内で売り捌きつつ、広報官のゲイル(ジェイミー・アレクサンダー)と浮気して妊娠させている。彼の売人稼業が上官公認となっているのは笑いどころなのだが、「向精神薬がないと戦えない」という軍人の薬物汚染自体は現実にもありそう。彼は最後に大仕事をするためのキャラクターなのだが、メインの軸の一つに据えるには蛇足的エピソードも多かったと思う。

ウォルターの下半身はそれ程忙しくない。アメリカのビザを餌にすれば女が寄ってくるとのことだったが、なにしろ外見がジャック・ブラックである。七人の少女たちからも「キモいおじさん」と貶されていた。彼はウォルターに娼婦を手配した実績があり、下っ端職員なのに大臣の連絡先を知っている。大使館職員というと聞こえはよいが、主たる仕事はパーティー用の大麻の手配である。

そもそも状況自体が非常に混乱しているのに、三人が三人とも阿呆なせいで更に状況を混乱させていく。しかし、彼らは阿呆なばかりではなく有能な側面も持ち合わせており、事態を打開するような働きを見せる──かと思えば、更にややこしい事態に陥るだけだったりする。この二転三転が笑い所であり、外交の複雑怪奇さを象徴する場面でもある。「なにやってんだ!?」「いけるじゃん!」「やっぱりダメじゃん!」の入り乱れ方が尋常ではない。当事者は息をつく暇もない危機的状況に対して、視聴者は息をつく暇もなく笑える。

ウォルターは相当な性豪なので、やたらと戦争したがるタカ派を「性的不能者の代理行為」と非難する。そんな理由で核戦争を起こされたらたまったものではないのだが、90年代から温め続けていたという“無限の知恵”作戦をどうしても実行したがる辺りはリアルだと感じた。強い兵器を持っていれば使いたくなるし、入念に準備した作戦があれば実行したくなる。単純な下ネタで笑わせたかと思えば、社会派なブラック・ユーモアも満載で、バカなだけではない一作となっていた。