オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『マッド・ダディ』

Mom and Dad, 85min

監督:ブライアン・テイラー 出演:ニコラス・ケイジセルマ・ブレア

★★★

概要

キレた親が子を殺す話。

短評

ニコラス・ケイジの見事なキレ芸を楽しめる一作。もっとヤリ過ぎなくらいに暴れ回ってくれてもよかったという気がしなくもないが、ニコラス・ケイジがあまりにも活き活きと演技していて、見ているこちらも楽しくなった。ギャグで笑わせるタイプとは異なる種類のホラー・コメディである。本作にテーマなんてものが存在するのかは分からないが、大人に対して常に不満を抱く子供たちと同様に、大人だって子供に不満を抱くこと自体はもっともな話だろう。

あらすじ

郊外の住宅地に住む父ブレント(ニコラス・ケイジ)、母ケンダル(セルマ・ブレア)、娘カーリー(アナ・ウィンターズ)、息子ジョシュの四人家族。その日もいつもと変わらない日常のはずだったが、カーリーの学校に生徒の親たちが詰め掛け、自分の子を殺し出すという事件が起こる。友人ライリー(オリヴィア・クロチッチア)と逃げ出したカーリーだったが、ライリーもまた母親に殺され、彼女は自宅に戻る。TVニュースによると国中で同様の事態に陥っているとのことであり、両親の帰宅前にジョシュと逃げようとするが、そこに父ブレントが帰宅する。

感想

子供は大人に対して不満を抱くものである。反抗期は健全な成長の一過程であり、ない方が不安になるくらいである。もっとも反抗期が終わろうと“大人への不満”がなくなるわけではなく、ままならない自己の現状を親のせいにしてみたり、社会を支配する“老害”のせいにしてみたりする。いつだって精神的スケープゴートが必要なのである。また、彼らはその“大人”に対してキレることが社会的にある程度許容されている。

しかし、年を重ね、子供のいる年齢ともなると、今度は自分が“大人”の側に回る。「大人が悪い」とは言えなくなってしまう。「老害」という紋切り型の批判を覚えた者もまた老害に片足を突っ込んでいる。とは言え、大人だって人生や子供の態度に不満があるに決まっている。子供と同様に将来への不安だってある。本作ではその矛先が自分の子供へと向かうのである。「子供ができて人生の計画が狂った」とか「平和でつまらない人生になってしまった」というありがちな不満が極端な形で発露したと言えるだろう。“キレる17才”ではなく“キレる47才”である。ゾンビパンデミックのように一斉に花開いたのは映画的な仕掛けだろうが、その根底にある感情自体は理解可能である。

もっともこの点について争うのなら、大人の側が圧倒的に分が悪い。彼らには「本人の同意を得ずしてこの世に産み落とした」という決定的な落ち度があるため、「生んだお前の責任」との批判を免れない(反出生主義万歳。「死にたい」と「生まれたくなかった」は別である)。というわけで、本作の大人たちのブチギレは八つ当たりでしかないのだが、それが分かっていて現実では出来ないからこそ、映画の中でやるのが楽しいということになる。

本題のブレント×ケンダルの大人チームvsカーリー×ジョシュ(+カーリーの恋人デイモン)の子供チーム。ニコラスの顔芸が面白いとしか言いようがないくらいに顔芸が圧倒的な魅力を放っているし(言葉にならない言葉をフガフガ叫ぶのも最高)、攻防戦の部分も面白い。子供チームは地下室に逃げ込んで立て籠もる。万能ノコギリによる扉破壊は銃による反撃で失敗に終わり、大人チームはガスを充満させる作戦に出る。この作業風景の“嬉々としていながらも冷静”な感じがとても好きである。それに気付いた子供チームの反撃も見事で、吹っ飛ぶブレントのスローモーションは爆笑必至である。ケンダルが武器を選ぶシーンで、ナイフと肉叩きの選択肢から後者を手に取るのも素敵だった。

惜しかった点は、ライアン家に話が移ってからはほとんど人が死なない点だろうか。折角肉叩きを選んでも叩き潰すシーンがないし、デイモンは何度でも不死身のように蘇る。ブレントの親の登場というサプライズがあって、ブレントの父は顔が潰れたので死んでいるのではないかと思うが、意外にもサラッとした描写である。多くの家庭が大人チームのブチギレのような危うさを秘めて成立しているということを描きたかったのではないかと思うが、他の家庭の子供たちはバンバン死んでいるわけで、ライアン家も子と親のどちらを殺してしまってゴア描写のサービスがあってもよかったのではないかと思う。

原題『Mom and Dad』の頭文字を取ると「MAD」になるのは面白いと思う。「あなたたちを世界中の何よりも愛してる」「でもパパたちは、時々どうしようもなく……」というラストシーンに続いてこのタイトルが出てくるのは、「親というのはそういうものなのだ」ということだろう。それが分かりやすいという意味では珍しく好きな邦題である。

カーリーの学校は制服があるタイプだった(ブレントは年収が減ったと嘆いていたが、家政婦を雇うくらいには裕福だし、良い学校なのか)。超ミニスカで転んだ時には豪快にパンチラしていたが、黒のパンツっぽくない素材だったのでブルマ的な見せパンか。

マッド・ダディ(字幕版)

マッド・ダディ(字幕版)

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