オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ホームレス ニューヨークと寝た男』

Homme Less, 88min

監督:トーマス・ヴィルテンゾーン 出演:マーク・レイ

★★★

概要

ニューヨークのイケオジ・ホームレス。

短評

顔が男前で、長身でスタイルが良く、オシャレな服を着こなして、ニューヨークの街を闊歩する。そんなホームレスのドキュメンタリー。そこだけ切り取れば抜群に格好いいおっさんなのだが、格好いいのは本当に“そこだけ”というのが面白い一作である。第一印象とは対照的に惨めな人生、本人が自虐的に語っている通りにダメダメな部分も多い人格、そして「こんな外見だがやはりホームレスなのだ」と思わせられる生活風景と心理描写。それでもなんとか生きているのは逞しいが。

あらすじ

格好よくスーツを着こなし、街行くモデルに声を掛けて撮影するフォトグラファーのマーク・レイ。モデル出身であり、俳優の仕事もこなす。とってもダンディな52才である。魅力的な男性にしか見えないマークだが、実際にはアパートの屋上で暮らすホームレスなのであった。

感想

そのビジュアルの良さとホームレスという組み合わせから、“あえて”ホームレス生活を送っているのかとも思ったが、そんなことは全くなかった。哲学的意図があるわけでもなければ、自らの意思でホームレスを楽しんでいるわけでもない。勝ち組ルックな外見とは裏腹に完全に負け組である。本人も事ある毎に「道を間違えた」と回顧している。一見どれだけ優雅に映ろうと、その生活風景は悲惨の一言であり、「外見とのギャップが面白い」と言えるようなホームレス生活では決してない。

若い頃はモデルの仕事がそれなりあって生活できたようだが、現在はフォトグラファー業と単発のエキストラが主な収入源である(『MIB3』にも出演)。とても華やかに見える業界だが、その反面熾烈な競争の待っている業界でもある。大抵の人は人知れず業界を去って別の人生を送ることになるのだろうが、マークは惨めにも“しがみついている”という印象を受けた。彼は確かに男前でコミュ力も高いが、練習風景を見る限り演技が上手いとは言えず、俳優としての仕事に先がないことは本人も分かっていると思う。

彼は家族も皆貧困であり、(大学を出てはいるものの)ルックス一本勝負で大逆転可能な業界の麻薬的な魅力に夢を見続けているかのようであった。「他の仕事を探せば?」とは誰もが思うことだろうが、彼にはそれができない。彼は若い美女が大好きで、「セックスや恋は諦めた」と言いながらも女の尻を追い掛けている。特にロシア人モデルやフランス人へのがっつきぶりは凄まじく、モデルに対しても撮影や業界人への紹介を餌に公私混同のデートしていたりする(屋上には連れ込めないと思うが、もし上手く行ったらホテルに行くのだろうか)。これらの姿はとても格好悪いのだが、その“みっともなさ”まで隠すことなく曝け出しているのが本作の魅力と言えるだろう。“格好いいホームレス”に期待するような“何か”がない辺りが逆に面白い。

マークの言葉で印象的だったものが二つ。一つは、「ヘトヘトに疲れて帰るのコツ。眠れないと余計なことを考えてしまう」。これはホームレスでなくとも精神的に参っている人には同じことが言えると思う。「どうすれば状況を改善できるか」なんて考えても分からず、「どこで道を間違えたのか」「明日以降どうなるのか」といった後悔や不安にばかり襲われる。もう一つは、「いつもどこかで緊張している」。マークが根城にしている屋上は不法侵入しているだけなので、「いつか見つかって逮捕されると思う」と心配し、たまに知人に部屋を借りる機会があっても、「今帰ってきたらどうしよう」と気が休まらない。居場所のなさ故の曖昧な不安がリアルだと感じた。翻って、“家”の存在意義を感じさせる言葉である。

マークは、数年前に長期旅行に出掛けた知人の部屋を借り、そのまま鍵を拝借して屋上に侵入している(出入り時に友人や住人と鉢合わせしないかビクビク)。「映画の公開でバレるだろう」と思ったが、やはり映画の公開後に居を移したらしい。

マークがファッション業界にいて、モデルを選んで撮影しているというのもあるだろうが、ニューヨークはスタイル抜群の美女が行き交う。一日中眺めていられそうである。背景にもポテトカウチ的デブが出てこなかったと思うが、これも“切り取り”なのか。それとも大都会の方の車に頼らず歩く人が多いという事情の影響なのか。

ホームレスでもクレジットカードが持てるようだった。住所はどうしているのだろう。実家か。私書箱か。

原題が「Homeless」ではなく「Homme Less」である。「Homme」はフランス語で「男性」。「男性(らしく)ない」ではなく「(持って)ない男性」といったところか。

バッド・チューニング』の原題『Dazed and Confused』が雑誌の名前だと分かった。

ホームレス ニューヨークと寝た男(字幕版)

ホームレス ニューヨークと寝た男(字幕版)

  • 発売日: 2017/10/04
  • メディア: Prime Video