オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『青い塩』

푸른소금(Blue Salt/Hindsight), 121min

監督:イ・ヒョンスン 出演:ソン・ガンホ、シン・セギョン

★★

概要

元ヤクザの男と女殺し屋がイチャつく話。

短評

ソン・ガンホが出演しているので観てみたが完全に失敗だった。キャストで観る映画を選んではいけない。おっさんが主人公というだけで、中身はベタベタで甘々な恋愛ものである。その辺に掃いて捨てるほど転がっている少女漫画的メロドラマである。肝心のおっさん設定すらまともに使えておらず、若手イケメン俳優が出ていても不自然ではないような話だった。キャストにプロモーションで「今回は本格的なアクションにも挑戦してみました」と言わせるため程度のアクション・シーンもあるが、ソン・ガンホの妙な若作り程は印象に残らない。

あらすじ

ソウルのチルガク会から引退した伝説のヤクザ、ユン・ドゥホン(ソン・ガンホ)。彼は母の故郷プサンへ転居し、(男性受講者は一人だけの)料理教室に通い、自分の店を持つべく奮闘していた。彼が教室で知り合い、仲良くなった女セジュン(シン・セギョン)は、実は彼を監視する暗殺者だった。

感想

“伝説のヤクザ”であるドゥホンは、その片鱗をほとんど見せない気のいいおっさんである。裏社会の伝説と言えば、血生臭い話が出てきてしかるべきなのだが、そんな様子は微塵も感じさせない。落ちる包丁をスパイダーマン的機敏さで掴み取り、車に轢かれても平気。女は殺さないと決めている。ヤクザというよりもヒーローである。ヤクザという舞台設定は使いたいが、どうしても主人公はいい人で通したいらしい。

対するセジュンは、友人ウンジョン(イ・ソム)の借金を返すべく暗殺稼業に手を染めている(非公式のアジア記録持ちの)有能射撃手というこれまた漫画みたいな設定である。目の周りを黒く塗って“影のある女”を演出しているが、その薄っぺらさたるや尋常ではない。若手スターが「一皮剥けるためにダークな役に挑戦してみました」感がありありである。主演二人の安っぽいキャラクター設定だけで、「あ、これは失敗だったな……」と察した。

なんだかんだあってセジュンがドゥホンの暗殺任務を請けるも、スコープ越しに覗くおっさんの生活風景にキュンとしちゃって殺せず、二人は同居を開始する。高熱にうなされるセジュンをドゥホンが着替えさせる嬉し恥ずかしな定番イベント。ドゥホン暗殺を心配するセジュンが赤い光をレーザーポインターと見間違えてのラッキースケベ的キス。二人でプリクラを撮り、映画を観て、カラオケにいく。帰り道はドゥホンが酔ったセジュンをおんぶする。なんだこの甘々な青春は……。高校生カップルの話かよ……。十代の少女でなければ胸焼けする甘さである。砂糖が飽和して底に粒がジョリジョリと残っている。劇中に甘いコーヒーが何度も登場し、おっさんのドゥホンがその美味しさを認識するシーンがあるが(この描写があるということは、監督は自覚的に甘さを演出しているはず)、三十郎氏は本作の甘さを受け入れられなかった。

高校生カップルみたいな青春を謳歌し、ソン・ガンホが(少し前の)若手韓流スターみたいな髪型をしていようと(セジュンの髪型も一昔前の懐かしみを感じさせる)、ドゥホンはおっさんである。元部下で現在も付き合いのあるエックは、彼とセジュンの関係を「兄貴、援助交際はよくない」と指摘する。世のおっさんたちよ、これが現実である。

そんな甘々なラブストーリーが本編なので、「ヤクザ」や「暗殺者」という設定から期待されるようなバイオレンスは皆無と言ってよいほどの残念さだった。韓国映画は暴力描写には手抜きしないイメージがあったが、恋愛映画の客層に合わせた作りだとどうしてもヌルくなるらしい。それならどうして主人公がおっさんなのか。いかにもなイケメンが“心優しい元ヤクザ”という少女漫画の王子様みたいな設定なら三十郎氏が騙されて観ることもなかったのに。枯れ専向けの一作なのか。ソン・ガンホはそこまで枯れていないぞ。

旧統治時代の影響なのか韓国語と日本語には共通する単語があるものの、劇中で「ヤクザ」という発音は聞こえなかったと思う。「マフィア」もシチリアの文化なので違う気がするし(こちらは他の地域でも使われているが)、韓国では何と呼ばれているのだろう。雰囲気的には「ギャング」よりも「ヤクザ」寄りだったので、そのまま「ヤクザ」という単語を本稿でも使用したが、これらの犯罪組織の呼称として便利に使える言葉はないのか。

青い塩(字幕版)

青い塩(字幕版)

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