オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『運河の底』

The Canal, 89min

監督:イヴァン・カヴァナー 出演:ルパート・エヴァンス、ハンナ・フックストラ

★★★

概要

過去に殺人事件の起きた家に住んだら……という話。

短評

アイルランド製のホラー映画。超常現象と狂気の狭間でジワジワ攻めてくるタイプの一作である。幽霊の存在を疑って狂っていく主人公や、狂ったり記憶が飛んだりしている間の出来事といったネタはありきたりだが、「それだけじゃない」というホラー映画的な描写とのバランスが良かった。怖くて心臓が止まりそうにはならないが、嫌な怖さが残る。『ザ・カナル 悪魔の棲む場所』といういかにもB級ホラー映画的な邦題もある。

あらすじ

国立映像記録局の保管係として働くデヴィッドは、妻アリス(ハンナ・フックストラ)と息子ビリーの三人で一軒家に暮らしていた。ある日、職場に届いた警察の記録映像を確認したところ、1902年に彼の住む家で夫による妻殺しの事件があったというものだった。またある日、デヴィッドは妻を尾行し、彼女の浮気現場を目撃してしまう。何もできずにその場から立ち去るデヴィッドだったが、公衆トイレでドアの前に立つ何者かに出会い、誰かが妻を襲う姿を目にして気絶する。

感想

住んでいる家で過去に陰惨な事件が起きており、美人妻の様子がどこか変。夜中にメールが届き、夫婦の営みにも反応が薄く、(やけにミニ丈のドレスを着ていった)職場のパーティーで若い男と親しげに話す。残念ながら明らかに寝取られている。そうなると嫉妬に狂った夫が過去の事件をなぞるかように妻を殺すのが定石となるわけで、実際にそうなのだが、その理由の部分にホラーが存在する余地がある。果たしてそれは夫の狂気なのか、それとも“家”を介在した場の力が彼にそうさせるのか。夫は狂っているのかいないのか。これはなかなかゾワゾワくる設定である。

妻の死後、デヴィッドは何者かの影を頻繁に目にするようになり、明らかに正気を失っていく。挙げ句は住み込みで働くシッターのソフィー(ケリー・バーン。ムチムチで可愛い)とビリーを「この家はヤバい」とホテルに避難させたり、「家に何かいないか確認する」と彼らを閉じ込めたりする。同僚クレア(アントニア・キャンベル=ヒューズ。あの職場の雰囲気だと、こちらの方が先に不倫に発展しそう)も巻き込まれる。このようにデヴィッドが狂ってしまい、“現実”における出来事は“現実的”に説明がつくのだが、一方で、それにより“超常現象”な出来事が否定されるわけではない。

デヴィッドが過去の事件を掘り起こすと、「浮気した妻を夫が殺す」という現代との類似点や、その後「乳母を殺して子供と心中」といった先の展開への不安が浮かび上がってくる。「壁の中から音が聞こえる」と壁を破壊したデヴィッドが包みを発見し、その中の写真から悪魔崇拝的な何かが行われていたことが見えてくる。やはりこの家は何かがおかしいのである。その何かが解き明かされる心霊ミステリーとはなっていないが、「“何か”が存在すること」と「現実に事件が起こること」──この二つを繋ぐのが“場の力”である。最後にそれを証明する形で“事故”が起こり、冒頭の伏線が回収されてゾワッとした。ジャック・ニコルソンほどの怪演は見られないものの、とても『シャイニング』的な味わいがあった。

本作には日本のホラー映画的な静かな恐怖があるのだが、中でも『リング』に対する明らかなオマージュが存在する。デヴィッドが運河から現れた女(=妻)を撮影し(この撮影中にビリーに何か起きそうで不安)、自宅でフィルムを上映すると……からの“貞子”である。彼女の出産シーンには驚愕したが、冒頭から引っ張ってきた庭のマンホールの使い方としては少々物足りなかった。ここにはより決定的な盛り上がりが欲しかった。

アリスの母親が酷かった。葬儀に現れた彼女は、デヴィッドに「ビリーを預かりたい」と告げ、更に「(間男)アレックスが落ち込んでる」とまで言い出す。アリスの知人には公然の秘密たる関係だったとは言え、なにも葬儀の場でその話題を、しかも落ち込んでいる義息子に対して出すことはないだろう。なんたるデリカシーの欠如。一年間も浮気されて気付かなかったデヴィッドにも問題はあるが(おまけに死亡時の妻は妊娠中)、やはりこれは酷い。

運河の底

運河の底

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