オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『7500』

7500, 92min

監督:パトリック・ヴォルラス 出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、オミッド・メマー

★★★

概要

副操縦士と弱気なハイジャック犯。

短評

Amazon Originalのソリッド・シチュエーション・スリラー。「7500」はスコークと呼ばれる飛行機のコードで、「ハイジャック」を意味するそうである。ほぼコックピット内に限定された舞台設定や展開に意外性はないものの、緊迫感溢れる一作に仕上がっていた。よくある不自然なイベントで盛り上げようとすることなく、現実的な対処方法に則って恐怖と緊張が描かれている。『7500(Flight 7500)』という同タイトルの、これまた飛行機を舞台としたホラー映画があるのでご注意を(そちらの方が先に製作されているが)。

あらすじ

アメリカ人パイロットのトバイアス(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は、ベルリン発パリ行きの飛行機に副操縦士として搭乗する。シートベルト着用サインが消え、CAが飲み物を持ってコックピットに入ってくる瞬間──テロリストが突入してくる。「アッラーアクバル!」

感想

機長マイケルはテロリストに刺されて死亡するものの、トバイアスはなんとかコックピットを封鎖。コックピットに残ったテロリストを消化器でガツンと一撃して拘束。ここで一度コックピットに平和が戻る。テロリストたちは扉を開けようとガンガンやっているが、ちょっとやそっとのことでは開かないように設計されている。それがコックピットである。このガンガン音に素人なら不安になるところだろうが、プロのトバイアスは極めて冷静に無視していた。

そこで登場するのが人質攻撃である。「扉を開けないとこいつを殺すぞ!」の決まり文句である。トバイアスは葛藤するが、やはり扉を開けることはない。一人の命を救おうとして扉を開ければ、乗客全員と墜落又は“9.11的”テロ攻撃を受ける多数の人々が犠牲となりかねないわけで、心を鬼にして無視するより他にない(モニターを消したのは正解だったと思うが、何故再び点けた?)。人質が一人死亡し、次に出てくるのがトバイアスの内縁の妻ギョクチェ(アイリン・テツェル)。よくあるハイジャック映画ならここで扉を開けるところだが、トバイアスが「開ける開ける」と言っている間に殺されて事なき(?)を得ていた。

こうなるとトバイアスに失うものはないわけで、緊急着陸先のハノーバーへと飛ぶだけでよいはずなのだが、気絶していたテロリストのキーナンが復活する。この状況下でハイジャック犯を“完全に”拘束できない場合(トバイアスは左腕を負傷しており、救急キットの包帯で腕を後ろに巻いただけ)、パイロットによる殺害は認められるのだろうか。法的に可能であってもパイロット個々人によって“できない”という状況はありうるだろうが、法制度としてはどうなっているのだろう。殺さずとも動けないように脚や腕を折ってしまうのはどうだろう。

ハイジャック犯の武器はガラス片である。免税店で買った酒を(恐らく空港内のトイレで)割り、持ち手にダクトテープを巻いている(コックピットにもダクトテープがあれば……)。これは非常に簡単に持ち込める武器であり、日本で同じ事例が一件あれば規制されそうだと思ったが、所詮はガラス片である。トバイアスは機内放送で「犯人の武器はガラス片だけです。戦ってください」と乗客に呼び掛け、コックピットに逃げ込んだヴェデットと元からいるキーナン以外は乗客に制圧される。数の力には敵わない。乗客は機内持ち込みしたスーツケースを盾として上手く利用できるだろう。

過激派キーナンが「アッラーアクバル!」と市街地に墜落しようと試みるも、ヴェデットが「死にたくない!」とチキってキーナンを刺殺。トバイアスとヴェデットの初めての共同作業で無事着陸である。パイロットの視力条件は緩和されたらしく、離陸時のトバイアスはメガネを掛けているが、キーナンの反撃によりメガネを失う。従って、この緊急着陸時にはメガネなしである。そのことにより困っている様子は見られなかったが、メガネユーザーのパイロットが同様の状況に遭遇した時は大丈夫なのか気になる。

ハノーバーに着陸し、機内にはトバイアスとヴェデットの二人だけ。人質がパイロット一人だけのヴェデットには絶対に“勝ち”がない状況だが、それを彼が理解すれば自棄になりかねないため、トバイアスにとってもキツイ状況だと思う。18才の軟弱青年テロリストとの会話を経てトバイアスが同情するような描写もあったが、あの状況で窓を開けて立てば狙撃されるのは分かりきっているのに、それを教えない辺りはやはり冷静な対応である。キーナンの拘束に失敗した以外は、パイロットがあの状況下で“何と引き換えに何をできるのか”が強い説得力をもって描かれていたと思う。なお、三十郎氏はヴェデットに全く同情しなかったので、狙撃成功時にガッツポーズした。

テロリストと言えばイスラム教徒と決まっており、「アッラーアクバル!」と叫ぶお決まりの描写がアラブ系住民への差別を助長するという見方もできると思う(『ボウリング・フォー・コロンバイン』でメディアが黒人男性への恐怖を煽っていると主張していたのと同様)。しかし、たとえば日本人ハイジャック犯が「天皇陛下万歳!」と乗り込んできてもギャグにしかならないわけで、観客にリアリティを感じさせるには最も現実に近いと思われる描写を採用するしかない。この問題に解決策はあるのだろうか。ハイジャック犯にはマッチョな白人も混ざっていたが、これはバランスを取ったのか。それともISISに傾倒するような連中を意識したのか。

7500 (字幕版) [Ultra HD]

7500 (字幕版) [Ultra HD]

  • メディア: Prime Video