オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『眠れぬ夜のカルテ』

催眠大師(The Great Hypnotist), 101min

監督:レスト・チェン 出演:シュー・ジェン、カレン・モク

★★★

概要

催眠療法PTSDを治療する話。

短評

決して知名度は高くないと思うが、埋もれさせておくには惜しい中国映画。日本ではプライムビデオで配信されているだけのようである。少々種明かしが長すぎるし、一部に催眠術から逸脱した超能力が混ざっているものの、『インセプション』×『シャッター アイランド』とでも言うべき複雑さと重層性を持ち合わせた展開が非常に面白かった。どんでん返しについては途中に分かりやすい伏線を張っているが、「知ってた」とはならない程度にうまく話をまとめ上げている。これは良い掘り出し物だった。

あらすじ

催眠療法を用いるスキンヘッドの精神科医シゥ・ルイニン。旧知のファン教授から「他の医師ではなんともならなかった」という一人の患者を任せられる。患者の名前は、ニン・シャウヤン(カレン・モク)。彼女には霊が見えるのだと言う。夜中にビー玉の弾む音を聞いたら階下の死んだ住人に導かれたという話や行方不明の少女がバスに乗っているのを見たという話を聞かされるも、シゥにはどうも信じられない。そこで彼は、得意の催眠療法でニンから真実を聞き出そうとする。

感想

シゥの催眠療法は、お馴染みの振り子を見せながら「1、2、3」の合図で患者を眠らせるもの。話の内容が今ひとつ要領を得ず、何かを隠しているようなニンに対して催眠療法が施され、彼女の隠されし、そして認めたくない過去が解き明かされていく。ここで簡単に「治療完了」とはならず、治療を“施している”はずのシゥの方が混乱してしまったり、ニンが目覚めて現実だと思ったら催眠中だったという描写で観客の混乱を誘う。

オチを書くと、「実はシゥの方が……」という話なのだが、ニンの治療がかなり難航し(同時に解き明かされる新事実も多い)、その過程と結論にかなり説得力あるため、構図の逆転だけに気を取られることなく集中できた。ニンの恋人が死んでいることが判明し、シゥは「本当は病気だと分かっているけど、彼に会いたくて治したくないんだな」と見抜く。ニンが「私も納得しかけたけど……」と逆転が始まるのだが、三十郎氏もすっかり納得させられてしまった(その前の「論理的に解釈しないで!」は笑った)。それもそのはず。シゥはちゃんと精神科医であり、本作は精神科医vs精神科医の非常に高度なバトルとなっている。

シゥの用いる患者を眠らせる催眠療法は恍惚催眠と呼ばれ、逆にニン(本名グゥ)が用いるのは覚醒催眠である。シゥは映画序盤の講義で「赤色と黄色の組み合わせを見たらマクドナルドを連想する。これがCMの暗示として使用される覚醒催眠」と説明し、きっちり伏線を張っている(シゥの覚醒状況は怪しかったが)。

シゥによる治療中に、逆にシゥが催眠に掛けられているような描写が登場するため(池に落とされる)、医師と患者の逆転オチ自体は“大どんでん返し”という感じではない。しかし、ニンの治療で出てきた話がシゥの話と繋がっていたり(二人は共にファン教授の教え子)、映画冒頭の催眠療法とは逆の結論になっていることで、“綺麗にまとめた”感が出ている。特に後者の「自分を許せるのは自分だけ」という考え方はもっともだと思う。「観客を騙すため“だけ”に無理やり作った話」という印象がない点にも好感が持てた。

種明かしは一から十まで懇切丁寧に説明するタイプで、「長すぎるからこれもミスリードなのでは……」と心配する程だったが、ファン教授考案の作戦の全貌がよく分かるようになっていた。ニンが登場シーンで不自然に時計を気にしていた伏線は特に納得がいったし、彼女の怪しげな行動の数々も腑に落ちる。一方で、ファン教授の能力は催眠療法を逸脱していると言わざるを得ない。ニンがシゥの催眠療法に完全に飲み込まれて計画がバレてしまわないように、彼女が落ちかけた時にはファン教授が遠隔で介入するのだが、これは一体どうやって……。催眠療法自体が超能力的なので流してしまいそうになるが、ここは超能力としか言いようがない。

ニンの催眠状態は、ニン視点の幻想的な映像とシゥ視点の現実映像の二つで描かれている。後者は覚醒状態で話していたということか。本職精神科医を騙せるニンの演技力とファン教授の超能力は双璧か。

眠れぬ夜のカルテ

眠れぬ夜のカルテ

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