オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『おっぱいとお月さま』

La teta y la luna(The Tit and the Moon), 86min

監督:ビガス・ルナ 出演:マチルダ・メイ、ピエル・ドゥーラン

★★★

概要

弟にママのおっぱいを独占された少年が自分だけのおっぱいを求める話。

短評

日頃よりおっぱいへの愛を声高に叫ぶ者として避けては通れない一作(もっとも既に観たことはあったが)。本作は少年視点でのおっぱいへの希求を描いているのだが、その描写の節々から浮かび上がるのは、自己のおっぱいへの希求との差異である。男は(ほぼ)皆が「おっぱいおっぱい」と柔らかく丸いふくらみに憧れを抱いてやまないものだが、「おっぱい」という言葉の持つ意味は様々である。主人公のおっぱい的妄想世界をメタファーとして解釈しきるのは厳しいものがあるものの、一種のマジックリアリズムとして捉えれば、おっぱいのふくらみのように豊かな表現力を持つ一作だった。

あらすじ

弟の誕生を苦々しく思う少年テテ。「僕は牛乳なのに弟はママのお乳だ」と嫉妬し、自分だけのおっぱいを見つけることに決める。テテは「おっぱいを送ってくれ」と月に祈り、月は一つの星を送り届ける。星の名前はエストレリータ(マチルダ・メイ)。オナラの名手である夫モーリスと共にサーカスで働くフランス人のバレリーナである。モーリスや彼女に触れて電流の走ったミゲルがライバルとして立ちはだかるが、果たしてテテはおっぱいを手に入れられるのか。

感想

マチルダ・メイのおっぱいが実質的な主役である。テテにとっては「ママより素敵」な至上のおっぱいなのだが、三十郎氏にとっては(たとえばダダリオ様のおっぱいのように)「完璧」とまでは言えない。この理由は明らかである。乳輪の色である。マチルダ・メイのおっぱいの形状は「完璧」と讃えてもよい。テテの求めるおっぱいが“ミルクの出てくる生体哺乳瓶”であるのに対して、三十郎氏の求めるおっぱいは“特殊な柔らかさを有する肉塊”である。前者には経産婦特有の濃くなった乳輪こそが喜びを与えてくれ(エストレリータが経産婦という描写はないし、そこまで黒くもないと思うが……)、後者には薄いピンク色の乳輪こそがときめきを与えてくれる。求める役割によって求める外観も変化する。ミルクを求めない成人男性の間でもおっぱいの好みは様々に分かれるが、実は細かな欲求の差異が影響しているのかもしれない。社会学者はこのテーマで論文を書くべき。

テテが前を通りかかった店の女たちが一斉におっぱいを放り出して披露し、「ミルクをください」と頼むテテの口にエストレリータがピューと放物線を描いて母乳を流し込む。これらの描写は現実ではなく、テテのおっぱい妄想的マジックリアリズムと解してよいのだろうか。前者は単なる願望で、後者は普通に牛乳をくれただけかもしれない。「おっぱいを触らせてくれた」と言いながら一方的にタッチするシーンを基準とすべきだろうか。本作のラストシーンは、おっぱいを放り出して応援するエストレリータの力を借りたテテが祭りの名物である人間タワーの頂上に登るというものなだが、これも時空間が飛躍している。テテがおっぱいを求めすぎて、何が現実なのか分からなくなってくるレベルである。人間タワーは「勃起」の、登頂成功は「射精」のメタファーなのかとも思ったが、流石に精通を迎えてないか。その後「やっぱりママのミルクの方が美味しい」となるので、テテにとってのおっぱいの本質は外見ではなく味であることが改めて分かる。

ライバルのミゲル。天使の歌声でエストレリータを口説き、親友スタローンの死を悲しむ彼に同情したエストレリータが慰めセックスをさせてくれる。その前段階として、夫モーリスは年とオナラによる疲労のせいで硬くならず、彼女が欲求不満に陥っているという描写がある。エストレリータが毎晩食べているバゲットは、“夫を硬くするための努力”をテテがそう解釈したのだろう。エストレリータは夫を愛しながらも湧き上がる肉欲を抑えきれず、モーリスは彼女を愛しながらも肉体的に応えられないことに後ろめたさを感じている。その結果として、モーリスは若い男と交わる妻に激しく絶望しながらも、黙認してしまうとうい寝取られシチュエーションが成立している(妻が寝取られている瞬間にモーリスがバゲットを砂浜に埋めるという心理描写!)。あら素敵。それでもエストレリータが単純にミゲルに走るというわけではなく、三角関係が奇妙なハッピーエンドとして成立する性にオープンな世界観だった。

エストレリータには二つの性癖がある。一つは、涙を舐めるのが好きだというもの。小瓶に入れて収集している。これは、ミゲルへの慰めセックスが象徴しているように、不憫な男への同情を抑えきれない性格を表現しているのではないだろうか(三十郎氏も不憫ですよ)。もう一つは、足を舐めるのが好きだというもの。特に好きな足の香りは、カリフラワーとブルーチーズである(モーリスに頼む買い物の内容もこの二つ)。こちらの意味するところは分からない。なんでもかんでも解釈しようとしてはいけない。おっぱいおっぱい。委ねよ。

「おちんぽミルク」なる言葉をご存知だろうか。少なくとも男性諸氏は目にしたことのあるパワーワードだろう。その言葉が本作で実際に使われているわけではないのだが、概念的な初出は本作ではないかと思う。弟を乗せた揺りかごに繋がる紐を足の指にかけたテテの母(Laura Mañá)が、「あんたのミルクを入れて!」と叫びながら夫と交わる。テテはこれがミルクの素だと思っている。エストレリータとミゲルが交わった際にウォーターベッドに穴が空き、彼女の住むトレーラーハウスから水が漏れ出す。この漏れ出した水が、テテにとってはミルクである。内部で射精が行われたことの隠喩だろう。よくもこんな直球でありながら婉曲的な変態的表現を思いつくものだと思う。発想の勝利である。

おっぱいとお月さま [DVD]

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  • 発売日: 2003/09/26
  • メディア: DVD