オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『知りすぎていた男』

The Man Who Knew Too Much, 120min

監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:ジェームズ・スチュアートドリス・デイ

他:アカデミー賞歌曲賞『Que Sera, Sera』

★★★

概要

アメリカ人一家がモロッコ旅行中に国際的陰謀に巻き込まれる話。

短評

ヒッチコックお得意の巻き込まれ型サスペンス。『暗殺者の家(The Man Who Knew Too Much)』のセルフリメイクとのことである。序盤のマクガフィン的巻き込まれシークエンスには「一体何が起きているのか」とワクワクかつドキドキさせられ、事態の全容が掴めた後半は「何が起きるのか分かっている」が故のハラハラを楽しむことができた。名匠の技である。

あらすじ

外科医の夫ベン(ジェームズ・スチュアート)と元舞台女優の妻ジョー(ドリス・デイ)。息子のハンクを連れてのモロッコ旅行中にベルナールという男と知り合い、食事の約束をするもドタキャンされてしまう。仕方なく夫婦二人で食事に出かけると、レストランで女を連れたベルナールを目撃する。翌日、前夜のレストランで相席したドレイトン夫妻と市場を観光中に警察に追われている男を見かけ、背中を刺された男がベンの元に息も絶え絶えやって来る。その男の正体はベルナールで、彼は死の間際にベンに告げる。「ロンドンで政治家が暗殺される。警告を。アンブローズ・チャペル」

感想

「あの人、質問ばっかりで怪しい」と不審がる妻に対して「気にし過ぎ」と返す夫。三十郎氏も「気にし過ぎ」と言いたくなるところだが、この場合は女の勘が正しい。旅先でやたらと親切にしてくれる人に裏があるというのは万国共通である。ただし、夫視点で観ていると、ベルナールは「最初から100%怪しい人物」ではないため、徐々に怪しいと思わせていく辺りに“巻き込まれ感”がある。具体的には一家の泊まるホテルに部屋間違いの男が現れたタイミングか。そこでベルナールを疑い始めると他への警戒心が薄れて、妻が再び「怪しい」と不審がるドレイトン夫妻の怪しさを夫はまたも見抜けない。この心理を活かした事件への導入はお見事。

映画冒頭にオーケストラの演奏シーンがあり、「シンバル」が重要アイテムであることが示される。銃声を隠すことのできる暗殺タイミングなのである。通常のスリラー映画であれば主人公がそれを突き止めて暗殺阻止に奔走するところだが、本作は“巻き込まれ型”サスペンスである。主人公が真相を突き止めるのではなく犯人が観客に計画を明かし、観客は“その瞬間”が来るのをただただ緊張と共に見守ることとなる。この演出が白眉である。複数の緊張要素を同時進行させるのもよいが、本作は一つに集中させることで、演奏がはじまり、歌手が立ち上がり、そして遂にシンバル奏者が立ち上がり……という一連のクライマックス的シークエンスをじっくりと見せることに成功している。犯人が事前にしつこいくらいに音楽を何度も聞かせてくれるという親切設計のおかげで、否が応でも緊張が盛り上がる。この間、音楽だけを流して台詞を排除しているのも良い。なお、演奏シーンで指揮者を演じているのは、本作の音楽を担当したバーナード・ハーマンである。

日本人が「チャペル」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、礼拝堂(というよりも結婚式場)だと思う。「アンブローズ・チャペル」を電話帳で調べたベンが辿り着いた先が「アンブローズ・チャペル氏」の剥製工房で、「なんと人の名前だったか!」と驚いた。しかし、それはベンの勘違いで、やはり「アンブローズ・チャペル」という礼拝堂が正解だったという展開である。三十郎氏的には「え?逆に?そっちなの?」と二重の驚きなのだが、「チャペルと言ったら普通は礼拝堂でしょ」という気持ちもある。これは狙った演出なのか。それとも欧米では「チャペル」が礼拝堂よりも人の名前として認識されているのか。

オスカーを受賞した『ケ・セラ・セラ』。これは楽曲自体の良さ以上に使い方の勝利だろう。ジョーとハンクが共に歌うなんでもない伏線を序盤に入れておいて(ジョーが元舞台女優という設定も)、最後の最後に使ってくる。「あ~、ここでこう来たか!」である。これはアルバート・ホールでの緊張感マックスなクライマックス後のシークエンスなので、少しダレても仕方のない場面である。しかし、主人公にとっては首相暗殺阻止は最重要事項ではないため、必ず解決せねばならないエピローグの見せ方として一捻りあって面白かった。

銃に関する描写だが、暗殺に使われるのがピストルで、距離的に一撃で急所を仕留めるのは難しいのではないかと思った。また、ドレイトン夫が“友好的な三人”を装って大使館から脱出しようと試みるシーンも、ポケットに隠した拳銃を突きつけているのがバレバレである。

知りすぎていた男 (字幕版)

知りすぎていた男 (字幕版)

  • 発売日: 2014/02/01
  • メディア: Prime Video