オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ヴァスト・オブ・ナイト』

The Vast of Night, 90min

監督:アンドリュー・パターソン 出演:シエラ・マコーミック、 ジェイク・ホロウィッツ

★★★

概要

無線から不思議な音が聞こえて空から何かがやって来る話。

短評

(観たことがないので分からないが多分)『トワイライト・ゾーン』的な一作。怖いとも不気味とも異なる不思議で都市伝説的な話である。舞台となっている1950年代の風景が実際にどうだったのかは同じく分からないが、ベタな都市伝説的描写や古めかしい音楽がノスタルジーを感じさせた。

あらすじ

高校のバスケットボールの試合を控えたニューメキシコ州カユーガ市。ラジオのDJエベレットにバイト先の電話交換台まで送ってもらったフェイ(シエラ・マコーミック)は、仕事中にラジオと電話の両方から奇妙な音が聞こえてくるのを耳にする。ラジオを放送中のエベレットに電話が繋がり、その音を聞かせると、彼はラジオで流してリスナーに情報提供を求める。すると、ビリーと名乗る男性から電話が掛かってきて……。

感想

本作は『パラドックス・シアター』という番組の一篇として始まる。きっとこれが『トワイライト・ゾーン』のノリなのだろう。古い白黒テレビにカメラが接近していき、画面の中の本編へ。この導入部の入れ子構造は「本作はそういう映画です」という宣言か。フェイが交換台に到着した時に再びテレビ画面の演出が入り、これは「ここから奇妙な事が起こりますよ」というお知らせなのかと思ったが、その後も何度か同じ演出が入る意図は不明だった。テレビ番組でCMが入るタイミングだったりするのかな。

映画は別に面白くともなんともない日常の描写から始まり、無線の音を切っ掛けにSFミステリーへ。情報提供者が「軍の秘密任務で……」なんて言い出したりする超絶にベタな話なのだが、それが却って良いという類の映画である。SFホラーや壮大な謎を解き明かす展開を期待すると拍子抜けすると思う。「任務に参加させられたのは黒人とメキシコ人だけ」といったいわゆる現代的視座な台詞もあるものの、テレビよりもラジオが幅を利かせ、電話は交換台経由という焦れったい程に情報が断片的な時代──ネットがなくて胡散臭い事を信じられた時代ならでは物語なのである。ソ連の陰謀を疑えたのも時代的恩恵と言えるだろう。そのカビの生えたような古臭さこそが魅力と言っても良い。嗚呼、ノスタルジー

本作には何度か「電線を齧ったリス」の話が出てくるのだが、この「伝聞」の性格も時代性を表わしていると言えるだろう。三十郎氏はこの話を“作り物”の映画として観るが、劇中の登場人物たちは人から聞いた“嘘なのか本当なのか分からない話”として追っていく。その物語がやがて『パラドックス・シアター』の一篇や都市伝説となり、「あの話聞いたことある?」とまことしやかに噂されるようになる。「自分で調べる」ではなく「人から伝え聞く」の時代だからこそ成立したワクワクがある。

本作には何度か長回しが登場する。一つ目は、交換台へと歩いていくフェイとエベレットを捉えたもの。「気付いたら不思議世界に踏み込んでいるのかな?」などと考えながら注目していたが、上述の通り“お知らせ”までは何も起きない。フェイが雑誌の未来予想を話し続けるだけである(エベレットが「他は信じるがそれだけは怪しい」と言った携帯電話だけが現在までに実用化済み。自動運転はもうすぐか。真空の超高速地下鉄はなさそう)。二つ目は、フェイの仕事の描写。これはカメラがほぼフィックスであるため、「そう言えば今ワンショットだな」と途中で気付くタイプである。三つ目は、交換台からバスケ会場の体育館を経てラジオ局へと辿り着くもの。これが最も“長回し”っぽいカメラの動きを見せる。他の二つの本物の長回しに対して流石にワンショット風だろうが、長回しフェチの三十郎氏は大喜びだった。

他に演出面で光ったのは、ラジオに電話してきたビリーが話している間、画面が暗転するというもの。言葉だけを頼りに想像を膨らませる──というよりも膨らませるしかない状況が再現されている。ビリーは筋道を立てて話していたが、次の情報提供者となる老婦人の話が今ひとつ要領を得ない辺りがリアルで良かった。「こいつ何言ってんだ?」と苛ついていると、徐々に話が核心へと迫っていく。話が繋がるとゾクッと来る。「素人の体験談ってこんな感じだよな」の再現性である。老婦人の話の中で「特定の考えを植え付けて人々を対立させ、国を無意味な戦争に向かわせる」の下りは示唆的な感じがしたが、何の隠喩なのだろう。

ラストはUFOに連れ去られてしまったということでよいのか(空からやって来た“何か”がUFOというオチもベタ中のベタ!)。BGMは壮大かつ神秘的体験みたいだったが、録音機だけが後に残されている。(結果的に老婦人の証言は正しかったので)もしエベレットが老婦人のメモを受け取っていれば……ということなのだろうか。自ら首を突っ込んだ二人は仕方がないとして、赤ん坊のマディは気の毒である。語り手となるべき人物が消失するのも、この手の不思議系SFのテンプレだったりするのだろうか。

「車に乗り慣れていないから」という理由でよく走るフェイ。ドタバタしたフォームで運動神経が悪そうなのが可愛かった。ところで彼女とエベレットの関係は何だったのか。フェイにカメラを貸してくれる隣人がエベレットの名前を聞いて一方的に嬉しそうにしていたので、フェイの片思いだったりして(恋人というほど甘い関係には見えなかった)。甘酸っぱいな、ちくしょう。