オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ロケットマン』

Rocket Man, 121min

監督:デクスター・フレッチャー 出演:タロン・エジャトンジェイミー・ベル

他:アカデミー賞歌曲賞『(I'm Gonna) Love Me Again』

★★★

概要

エルトン・ジョンの半生。

短評

恥ずかしながら三十郎氏はエルトン・ジョンの曲を一曲もフルで聞いたことがない。人物についても奇抜な衣装で歌うナイトの称号持ちのゲイということくらいしか知らない。そのため、「この曲!」「この場面!」というファンならばできるのであろう楽しみ方はできない。しかしながら、エルトンが劇中で普通に歌う伝記映画ではなく、完全にミュージカル化された演出の勢いのおかげで楽しむことができた。物語はスターの伝記映画のテンプレでしかないのだが、存命の人物が製作総指揮としても関わっているので仕方ないだろう。

あらすじ

ステージ衣装のまま依存症患者の会に現れたエルトン・ハーキュリーズ・ジョン(タロン・エジャトン)。アルコール、コカイン、セックス、買い物、過食、大麻。あらゆるものの依存症となった彼が自らの半生を語りはじめる。両親に愛されずも音楽の才能に恵まれた少年時代。作詞家バーニーとの出会い。ミュージシャンとしての成功、そして没落。そうしてエルトンは自らと向き合っていく。

感想

彼の人生において重要そうな人物や名称が登場してもさっぱり。曲が流れても「聞いたことあるかも……」程度。それらが出てきた時の興奮が全く得られないのは残念だが、エルトン・ジョンの入り口としてそれなりに楽しむことはできる。少年時代の天才エピソード、バンドの同僚エルトン・ディーンとジョン・レノンから取った芸名(ハーキュリーズは誰から?)、作詞家バーニーとの出会いで音楽的に成功といった流れが非常に分かりやすい。また、『SING シング』でも披露していたタロン・エジャトンの歌声は魅力的だし、大掛かりなダンスや文字通りの“ロケットマン”と化す大げさなミュージカル演出がテンポよく飛び出してくるので、観客を退屈させることなく物語が進んでいく。

このスピード感はエルトン初心者にとってはありがたいものの、ドラマ面での弱さと紙一重である。エルトンは、ミュージシャンとして世界的な成功を収めるものの、両親の愛を得られなかった過去やゲイとして苦悩が彼を襲い、酒やドラッグ、そしてセックスに溺れていく。スターの伝記映画のテンプレ展開である(儲かりすぎたのか散財が問題とならないのは珍しい)。ある意味では物語的な核であるはずのこの苦悩がテンポの良さ故に非常に弱く、ただでさえテンプレ通りのストーリーを更に弱くしていた。

また、パーソナルな苦悩が影響をもたらすのが生活面だけで、音楽性に繋がらないのも音楽映画としては弱い(音楽的な成功は超トントン拍子で、売上が少々落ちるくらいで決定的な失墜はない)。これでは葛藤故に身を滅ぼすのではなく、並のスターが調子に乗ってドラッグに手を出すのと大差ない。最後は過去を含めて自分を受け容れるような構成となっているが(テレビ版『エヴァンゲリオン』みたい)、これが本人製作の映画だと、「自分が酒とドラッグに手を出したのは両親のせい」と言い訳しているように見えなくもなかった。

エルトンに次ぐ重要人物のバーニー。本作に登場する楽曲の多くは彼の作詞で、曲をつけて歌うのがエルトンという組み合わせのようである。ここで面白いのは、バーニーの書いた歌詞が、しっかりとエルトンの人生に重なっているように思える点である。誰の人生にも重ねられるような普遍性があるから大ヒットしたのだろうか。ただし、アメリカ進出して初ライブ後のパーティーでバーニーがヘザーとしけ込むシーンだけは、エルトンがバーニーの心情を歌い上げる構成となっている。

エルトン(当時レジナルド・ドワイト)は、エルヴィス・プレスリーとの出会いでロックに目覚め、「髪型を真似したい」と言ったら、母シーラ(ブライス・ダラス・ハワード。とてもデブっていた)から「うちの家系は20代でハゲるから今の内に楽しんでおきなさい」と告げられる(父はフサフサなのに……)。その通り、エルトンの生え際は徐々に後退していき、苦悩しながら鏡を見つめるシーンでも髪をイジっていたりする。三十郎氏は彼の他の悩みを共有することはできないものの、この悩みだけは理解できる。ところが、三十郎氏のイメージ通り現在のエルトンはフサフサである。これはどうしたものか。植毛なのか。裏切ったのか。

エルトンを演じるタロン・エジャトンは、剃り上げることで薄毛を再現したそうである。デ・ニーロやクリスチャン・ベールのように「抜く」という荒業には打って出なかったらしい。三十郎氏の友人に言わせれば、「役のために髪を抜くなんていうのは、また生えてくると思っている奴の傲慢」であり、「剃る」という選択には大変に共感できる。なお、薄毛・すきっ歯・小太りの三種の神器を揃えたエジャトンよりも、少年時代を演じる子役の方が本人そっくりなのは笑った。

ロケットマン (字幕版)

ロケットマン (字幕版)

  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: Prime Video