オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『マーウェン』

Welcome to Marwen, 115min

監督:ロバート・ゼメキス 出演:スティーヴ・カレルレスリー・マン

★★★

概要

リンチされてPTSDになった男が人形でナチスと戦う話。

短評

実話が基になっている人形作家の話。主人公及び周囲の女性をモデルにした妄想人形劇の映像的な面白さはそこそこ。それを通じて描かれる彼の立ち直りのドラマはもう一歩といったところだろうか。主人公がリンチを受けた理由については「個人の自由」であり、リンチが正当化されることは決してないものの、自分だけの人形ハーレムを築き上げ、おまけに周囲の女性に手当り次第なところは、性欲がダダ漏れで気持ち悪かった。この「ジョニーに正直過ぎる」ところはむしろ好きなのだが(このブログだって人のことをとやかく言えないし)、それを“良い話”としてまとめられると少々違和感がある。

あらすじ

ハイヒール愛好を理由に五人の男たちからリンチ被害を受けたマーク・ホーガンキャンプ(スティーヴ・カレル)。彼は事件以前の個人的な記憶を失い、PTSDを抱えたまま、第二次大戦中の架空の物語──ホーギー大尉が女性レジスタンスと共にナチスに立ち向かう──をミニチュアで創造・撮影して生活している。マークの向かいにニコル(レスリー・マン)という女性が引っ越してきて、ミニチュアの世界にも変化が現れる。

感想

ホーギー大尉と共に戦う女戦士たちを紹介しよう。リンチを受けて倒れているマークを発見したバー“アバランチ”店員のウェンディ(ステファニー・フォン・フェッテン)。自分の名前「Mark」に彼女の名前「Wendy」を加えて「Marwen」という村が誕生する程に思い入れのある女性だが(ミニチュア世界では結婚している)、店を辞めて引っ越してしまったのでミニチュア世界でも引退である。ロシア人介護士のアナ(グェンドリン・クリスティー)。アバランチ店員のカラーラ(エイザ・ゴンザレス)。模型屋店員ロバータ(メリット・ウェヴァー)。マークのリハビリを担当したジュリー(ジャネール・モネイ)。お気に入りのポルノ女優ジュゼット(レスリー・ゼメキス)。そしてニコル。彼女たちは皆マークの周囲にいる実在の女性である。

マークは、愛好するハイヒールについて「女性の本質と繋がれる」としており、終盤には「女性はこの世界の救世主なんだ」という台詞があることからも、一種の女性信仰の持ち主なのだろう。それについてどうこう言うつもりはないが、「女性に助けられたい」という価値観の根本が性欲に基づいているように感じられる。ミニチュア世界で自分と恋をさせ、勝手に盛り上がって現実のニコルにプロポーズする場面はドン引きだった(その失態を後述デジャのせいにするのがまたなんとも……)。性的嗜好とは別の部分でヤバい人である。ニコルにフラれたら次はロバータをスシに誘ってハッピーエンドとなっているが、誰でもいいのかよ……。

ミニチュア世界を通じて現実と対峙するという発想そのものは魅力的なのだが、それと実際にやっている事が上手く結びつかない。ナチス(=ネオナチの暴行犯)に立ち向かうのは現実がそのまま反映されているが、そこにお気に入りの女性たちを登場させるのは、彼のセルフセラピーにおいてどんな意味があったのだろう。モデルにされている人たちは、よく気味悪がることなく受け入れているものである。ロバータなんて服を破かれて、おっぱいまで放り出しているのに。ただし、人形の乳房には乳首がなく、「乳房・乳輪・乳首の三位一体」をもって「おっぱい」とする三十郎氏的には「おっぱい」ではない。

ミニチュア世界には他にデジャ(ダイアン・クルーガー)という魔女が登場する。彼女のエメラルド色の髪は、マークが依存に陥っている薬の色である。これは早い段階で分かるので、終盤にようやく「薬が本当の敵だった」なんて言われても今更でしかない。薬を絶てば現実にも立ち向かえるというだけで終わらせてしまうのは、中毒を象徴させるにしても少々安易ではないか。ニコルに付きまとう元恋人カートがナチス将校となってミニチュア世界に敵として登場するのだが、彼は彼で元爆弾処理班としてなんらかのトラウマを抱えているという描写はもっと活かされるべきだった。散々人形で活劇を繰り広げた割には、マークの立ち直りとの結び付きが弱かったように思う。

映像的に面白かったのは、人形がそのまま動くストップモーションアニメでもなく、完全に妄想としてリアルな動きをするわけでもない中途半端なCGの人形劇よりも、それと現実を繋ぐシークエンスである。カメラ(ペンタックス)のファインダーを覗く映像で繋ぐシーンは普通なのだが、ホーギーたちが乗っているジープがマークに引っ張られていたり、混乱したマークの世界がミニチュア世界へと移行するシームレスな繋ぎが印象的だった。彼がジープを引いて街を歩いているのは、泥ハネやタイヤの摩耗をリアルに再現するためである。新品にしか見えない小道具を使っているような作品にも見習ってほしい。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のセルフパロディは、第二次大戦の世界観がメチャクチャになりはしたが盛り上がった。

元ネタとなったホーガンキャンプ氏が創造した“Marwencol”の「col」は、「Nicol」ではなく「Colleen」らしい。

マーウェン (字幕版)

マーウェン (字幕版)

  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: Prime Video