オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『5時から7時までのクレオ』

Cléo de 5 à 7(Cléo from 5 to 7), 90min

監督:アニエス・ヴァルダ 出演:コリーヌ・マルシャン、アントワーヌ・ブルセイエ 

★★

概要

ガンと診断されるのが不安な女の話。

短評

幸福』を気に入ったのでアニエス・ヴァルダ監督作をもう一本……と思ったが、こちらはどうも苦手だった。必要以上に深刻な事態を想像して自ら不安を掻き立てる主人公の空回り的心中は分からないでもないのだが(三十郎氏にも似たところがある)、観客はその姿から何を受け取るべきなのだろう。これが実存主義的な不安というやつなのだろうか。さっぱり分からぬ。主人公クレオを演じるコリーヌ・マルシャンの長身美女ぶりは素敵だった。

あらすじ

健康に不安を覚えて病院で検査を受けたクレオ(コリーヌ・マルシャン)。結果が出るのは今日の夕方である。彼女はタロット占いの結果が良くなくて落ち込むが、付き人アンジェールも、恋人ジョゼも、歌のレッスンをするボブ(ミシェル・ルグラン)も、皆彼女の心配を本気で受け止めてくれない。一人でパリを歩くクレオは、公園でアントワヌというアルジェリアからの帰休兵に出会う。

感想

身体の調子が悪いと、「もし深刻な病気だったら……?」と悪い方向にばかり想像力を働かせがちである。これ自体はよくあることだろう。三十郎氏も、COVID-19の流行以来、少し喉がいがらっぽかったり咳が出ただけで「もしや……」と考えたことが何度もある。コロナとは関係なく死への不安を覚えることもある。クレオの不安もその延長線上と考えれば理解しやすい。三十郎氏は根がネガティブなのである。思えば、少年時代には地球温暖化による海面上昇で溺れ死ぬと怯えていた

そんな不安は、何か別の事をしていると一時的に気が紛れるのだが、ふと思い出したかのように再度襲ってくる。占いの後にショッピングをするクレオは笑顔なのに、ショーウインドウのアフリカ風仮面を見るなり不安になる。かと思えば、自宅を訪ねてきた人々が心配してくれなくて苛立つ。少々滑稽ではあるものの、同時にとてもリアルでもある。これがコメディならそれだけも面白いと思えるのだが、なにか“意味”を包含していると思わざるを得ない意味深な描写の数々が(カエル踊り食いオジサンは何だったの?)、単純に楽しむことを許してくれない。三十郎氏は理解できないくせに理解したがるのである。

アントワヌと病院に向かい、医師から診断結果を聞くと、クレオは「もう怖くない。なんか幸福な感じ」と晴れやかな顔を見せる。医師曰く、「放射線治療はキツいけど必ず治ります」とのことで、クレオの予感通りガンなのではないかと思うが、本当に大丈夫そうな宣告の仕方だったので、どう受け止めるべきなのか判断に迷う。診断結果が大したことなくて杞憂に終わったのか。それともガンであっても宙ぶらりんの状態が解消されたことで不安の一歩先に進んだのか。

冒頭の占いのシーンはカラーで、他はモノクロである。これはどういう意図なのだろう。不安を表現するために世界から色を消失させたのかもと考えたが、占いを受けている時だって不安である。

ミシェル・ルグランの他にもジャン=リュック・ゴダールらがカメオ出演している。知っていれば「おお!すげえ!」と驚くメンツなのだが、逆にヌーヴェル・ヴァーグが内輪で回している閉じられた活動のような印象も受ける。

「皆私以外のものを求めている」と言うヌードモデルのドロテ(ドロテ・ブラン)。確かに芸術家でない三十郎氏がおっぱいを眺める時でさえ、本人の人格から切り離されている(=誰のおっぱいなのかが重要ではない)ことがある。ハッとさせられた。ドロテは他の人に比べるとクレオの話を聞いてくれている印象だった。女友達というのは“話を聞いてくれる”存在らしい。聞いてくれるだけなのだが。

5時から7時までのクレオ (字幕版)