オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ライムライト』

Limelight, 137min

監督:チャールズ・チャップリン 出演:チャールズ・チャップリン、クレア・ブルーム

他:アカデミー賞作曲賞

★★★

概要

老道化師と若きバレリーナ

短評

チャップリンアメリカで制作した最後の作品(この後に赤狩りアメリカから追放)。これまでの作品のようにドタバタやって観客を笑わせるコメディではなく、ドタバタやってきた道化師が落ちぶれてなお笑いにこだわるというメタ要素のあるドラマである。彼のこれ以降の作品を知らないということもあり、“集大成”的な性格の強い一作だと感じた。これまで言葉に頼らず笑いを取り続けてきた喜劇王が、“らしくない”言葉を紡ぎ出していく姿が印象的だった。

あらすじ

かつての人気道化師で今はすっかり落ちぶれたカルヴェロ(チャールズ・チャップリン)。ある日、彼が昼間から酔っ払って家に帰ると、アパートの一階からガスが臭い、病気を苦に自殺を企てたバレリーナのテリー(クレア・ブルーム)を助けることになる。カルヴェロはテリーを献身的に看病して勇気づけ、彼女は再び舞台に立つまでに回復する。しかし、一方のカルヴェロは……。

感想

これまでは観客を笑わせ、その笑顔に“希望”を見い出させてきたチャップリン。テリーから「喜劇役者の話とは思えない」と言われるほど真面目に“生きること”を言葉にしていく。「今に命が惜しくなる。生きるのが習慣になるから」「死と同じように生も避けられない」「劣悪で醜悪だが素晴らしい」。これほどまでにストレートな言葉の連続はサイレント映画のイメージの強いチャップリンらしくないと感じたのだが、根底に通じているのは“生きる”ことそのものであり、生きていれば楽しいこともあるし、辛いことも笑いに変えられるということか。生きることがスタートラインである。

復活を果たしてカルヴェロに愛を告白するテリー。一方のカルヴェロは煮え切らず、彼女がかつて惚れていたネヴィル(シドニーチャップリン。父に似てない次男。)という作曲家と一緒になった方がよいと自らは身を引く。これをどう受け取るべきなのだろう。テリーは最後まで本当にカルヴェロを愛していて、悲しい感情のすれ違いがあったということでよいのか。それとも彼への感謝の心がネヴィルへの恋心を抑え込んでいたと見るべきなのか。どちらとも言えない複雑さこそが人間の心と言うべきなのか。カルヴェロの「親切にされるほど孤独を感じる」という言葉が印象的だった。

カルヴェロがテリーを復活させ、今度はテリーがカルヴェロを復活させるべく記念公演の舞台を整える(舞台の共演者がバスター・キートン)。カルヴェロを傷つけたくないテリーの配慮でサクラが用意されており、彼の持ちネタ“ノミの調教”は大爆笑の渦に包まれるが(カルヴェロよりも客がメインで映る)、予定外と思われるアンコールでは会場が静まり返っている(三十郎氏は楽しいと思ったのだが……)。しかし、最後にカルヴェロが舞台から転げ落ちる場面で再び大爆笑。ここも解釈に迷う。彼は道化師としては時代遅れになっていたが(演目もサイレント的)、最後の最後だけは観客の自然な笑いを勝ち取ったと見てよいのだろうか。そして死ぬのが本望ということであれば、ものすごい執念を感じる。これは「笑わせる」よりも「笑われる」に近い印象を受けたのだが、自分がどう見られるかよりも観客が「笑う」という結果に重きが置かれている。

テリーを演じるクレア・ブルームは、瞳がキラキラしていて凄く可愛かった。元はバレリーナだったというだけあってバレエも見事である(横からの照明で長く伸びる影も美しかった)。ただ、舞台監督が既に言葉で説明した筋通りの演目を実際に長々と映すのはテンポが悪く感じた。舞台のシーンは最初と最後、そしてカルヴェロがテリーをビンタするシーンだけを切り取れば十分だったのではないかと思う。

一度の鑑賞では消化しきれない複雑な味わいがあった。『アイリッシュマン』もそうなのだが、キャリアの終盤に差し掛かった映画監督がこれまでの作品を総括するような一作なのである。十分な実績がなければその総括は単なる独りよがりとなるし、キャリアを通じて描いてきた一貫したテーマがなくても意味を成さない。これは映画作家本人にとっても観客にとっても非常に贅沢な作品なのではないかと思う。死にたくなったらまた観よう。

プライムビデオでもチャップリンの映画が配信されているが、パブリックドメイン版のためなのか画質が非常に悪い(三十郎氏の観たBS放送バージョンはリマスターされていて綺麗だった)。メイクを落としたチャップリンの表情が伝わりにくいレベルの低画質で本作を見るのはもったいないように思う。35mmフィルムは8Kリマスターにも対応できると言われており、折角なら高画質が良い。デジタル撮影は後世におけるリマスター耐性の点でフィルムに劣ると言われているが、最近の低画素画像の高画素化技術(Remini等)を見ていると、現代の映画の解像度が問題になる頃には映像でも同じ事ができるようになるのではないか。「元の映像と100%同じとは言えない」という議論は巻き起こるだろうが。

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