オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ブレイキング・マネー 堕ちた大富豪の華麗なる大逆転』

Breaking the Bank, 105min

監督:ヴァディム・ジーン 出演:ケルシー・グラマー、タムシン・グレイグ

★★

概要

投資銀行の会長がホームレスになる話。

短評

パッケージ写真がジャック・ニコルソンに似ていると思ったけれど本編では全く似ていなかったコメディ映画。富豪からホームレスへの転落劇というギャップによる笑いが弱ければ、逆転劇にも“華麗”と言えるような痛快さはなかった。金融業界ものとしての面白さもない。良かった点があるとすれば、秘書ソフィーを演じるジュリー・ドレイが美人だったのと、「NINJA(No Income No Job No Assets)」と「ピーターの法則」という言葉を覚えられたくらいか。

あらすじ

200年の歴史を持つロンドンの投資銀行、タフトン銀行の会長に就任したチャールズ・バンブリー。しかし、彼は金融知識皆無の無能であり、妻の一族が設立した銀行を婿として引き継いだだけなのであった。部下のニックは彼の阿呆ぶりにつけ込んで巨額の損失を計上させ、タフトン銀行はライバル会社に買収されてしまう。チャールズは個人としても無一文となり、妻ペネロピにも逃げられ、ホームレスとなる。

感想

大富豪がホームレスに転落するコメディ映画は、古今東西無数に制作されているように思う。つまり人気のジャンルである。それまでの豪奢な生活とのギャップがあったり、金持ちの常識が貧民の非常識だったりして主人公が戸惑うものの、徐々に適応を見せる──というのが定番の展開である。しかし、本作はチャールズのホームレス生活にあまり焦点をおらず、見どころとなるべき場面が存在しなかった。阿呆が阿呆故に落ちぶれるというのは嫌いじゃないが、阿呆故に空回りする奮闘が描かれなければ何を楽しんでよいのか分からない。最後に人間的成長を遂げて大団円みたいになっているが、賢いホームレスという定番キャラが助けてくれただけである。こんな映画で真面目ぶって金融業界批判しても空虚なだけである。

その有能ホームレスのオスカーを演じるピアース・クイグリーが、『M:I』シリーズのソロモン・レーン役ショーン・ハリスに似ていた。ずっと彼だと勘違いして観ていた。

バンブリー夫妻の一人娘アナベルソニア・カシディ)は、投資銀行が稼いだ金で生活しながら資本主義の矛盾を訴えて活動するという立派な似非リベラル的ヒッピーに成長している。彼女は“フリーガン”なる活動を行っており、廃棄食品を食べて生活しているのだが、これは正直ホームレスとの違いが分からない。むしろホームレスに配給すべきだと思う。

美人秘書のソフィーを口説こうとする童貞会計士のグレアム。そのつもりで彼の家に泊まったソフィーに手を出さず、「紳士だからソファで寝たよ」と自信満々で告げると、「それは紳士とは違う」という悲しい通告を受ける。ソフィー曰く、「時には女の欲望に応えることも必要」なのだと。もっともな意見であり、彼女くらいノリ気であれば、いかなる唐変木であろうと察して然るべきなのだが、問題は応えるべき欲望の有無を見誤るケースが非常に多いことである。グレアムも非紳士的だが、逆の勘違いは更に非紳士的である。グレアムのような風貌であれば、「応えるべき欲望は存在しない」という前提で生きるのも無理はない。三十郎氏は同情を禁じえない。でも童貞卒業おめでとう、グレアム。「恋人はプールと同じだ。金は掛かるのに中で過ごす時間は短い」のジョークは面白かったぞ。