オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アップグレード』

Upgrade, 99min

監督:リー・ワネル 出演:ローガン・マーシャル=グリーン、メラニー・バレイヨ

★★★

概要

四肢不随の男が最新科学の力で妻殺しの復讐に挑む話。

短評

SF、アクション、サスペンスの三つがバランスよく融合した一作。『ソウ』シリーズで有名なリー・ワネル監督作にしてはオチがほぼ予想通りで弱かったと思うが、近未来の描き方とそこから派生したアクションの描写は楽しくて仕方がない。ビジュアル的には全力ホラーでグロテスクな描写もあるのに、思わず「Wow!」と叫びたくなるようなコミカルさがあるのも魅力的である。ワネルの盟友ジェームズ・ワンの名前が出てくる小ネタも面白かった(エレベーター待ちのシーン)。

あらすじ

自動運転が浸透し、ドローンが犯罪者を見張る近未来。旧型車の修理工グレイ(ローガン・マーシャル=グリーン)は、妻アシャ(メラニー・バレイヨ)と共に顧客のエロンに完成した車を届ける。帰宅中に自動運転がエラーを起こしてクラッシュし、そこに現れた男たちにアシャは殺害され、グレイも四肢不随となる怪我を負う。病床のグレイを訪ねてきたエロンは、彼の経営するヴェッセル社の最新鋭万能チップ“ステム”の被験者となることを提案。ステムの力で動けるようになったグレイに声が聞こえてくる「私はステムです。あなたの鼓膜を直接振動させています」。

感想

エロン邸を訪れた時点でステムが紹介され、その直後に事件が起こる。こんなの自演に決まっている。その先にもう一捻りあるものの、それもAIネタとしては定番中の定番だった。観客が真犯人を(ほぼ)分かっている状態で犯人探しするという負け戦のようなストーリーである。しかし、これがどうにも面白いという不思議。

ステムに話し掛けられたグレイは「俺はイカれてるのか!?」と激しく動揺するが、彼は意外にもすんなりと受け入れる。ステムが「事件現場の映像を見よう」と提案することでグレイの注意を妻殺しの復讐へと向けさせるのは上手い手法だと思った。グレイも観客も早々にステムを“味方”だと認識するわけである。

ステムの発見した手掛かり(グレイの手をプリンターのように使って犯人のタトゥーを印刷)を追って犯人宅に向かい、犯人の一人とご対面。ここで追い込まれたグレイがステムに“単独行動”の許可を与えると、またたく間に形勢逆転である。[脳→ステム→肉体]の経路で信号が伝わり動作しているのだが、グレイの脳の枷が外れると超人化するのである。この動きの絶妙な“ロボット感”と“操られている感”が素敵だった。超高速で滑らかな動作のはずなのに、聞こえないはずの「ウィーンウィーン」が聞こえてきそうである。ステムの攻撃はバイオレントな結末を迎えるものの、“強すぎる”という事実と、それを実現する“動き”の組み合わせがなんともコミカルで楽しかった。ステムはとっても頼りになるのである。

しかし、敵の方もあっさり負けてばかりではない。敵は敵で義体化されており、腕には銃が内蔵され、目がカメラになっていてデータの取り出しが可能で、更には咳に(月の砂みたいに細かく鋭い)ナノテク兵器を仕込んで相手を殺せるのである(今の世界の咳はナノテク兵器がなくても怖いが)。上腕に空いた穴から弾丸を装填していき、腕を曲げてリロードする仕草が最高である(彼が腕を折られてセルフヘッドショットさせられるのも最高だった)。[ステム+グレイ]vs義体化人間フィスクの頂上決戦が、感情のコントロールで決着がつくのはナイスバディ感が出てきて面白かったが、後から考えればミスリードだったのだろうか。

ステムがエロンの介入を除去する目的でハッカーに自身をハッキングさせ、ついでにグレイからの独立性を獲得する。この時点でAIの話にありがちなオチになるのは予想がついたが、真犯人[エロン→ステム]の二段オチは、序盤の描写と本編の大部分に疑問を残した。エロンがステムに操られていたのなら、どうして最初からステムが自律してグレイの肉体を乗っ取れるプログラムにしなかったのだろうか。ステムがグレイを選んだ理由は「機械嫌いで身体に何も埋め込んでいないから」である。一緒に探偵ごっこしたり大立ち回りするのは、ステムを埋め込んだ時点でグレイの脳を乗っ取っとり、その後でもよかったのではないか。本編が丸々無駄だったのではないか。

無駄なことをしていただけの話なのかもしれないが、本作を観たことが無駄だったとはとても思えない。「オチが読める」と「無駄な話だった」の二重苦があってなお面白いのは凄い。一つ一つの描写が非常に魅力的であり、それらをテンポよく繰り出していくので、映画が終わるまで常に「楽しさ」が「疑問」を上回り続けていた。この映像面でもちゃんと近未来SFしている映画を、たったの数百万ドル(Wikipediaだと300万、IMDBだと500万)で実現してしまったというのは驚嘆に値する。

アップグレード (字幕版)

アップグレード (字幕版)

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