オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ロープ 戦場の生命線』

A Perfect Day, 105min

監督:フェルナンド・レオン・デ・アラノア 出演:ベニチオ・デル・トロティム・ロビンス

★★★

概要

ロープがなかなか手に入らない話。

短評

原題の『A Perfect Day』がとっても皮肉な戦争映画である。国際支援団体という戦場における“部外者”の感じるもどかしさが、ユーモアを交えて描かれている。「たった一本のロープを手に入れる」というだけの物語が、(終戦間近の)紛争地帯が舞台というだけで驚く程のドラマ性を獲得していた。登場人物のユーモアに笑い、それにより忘れさせられていた過酷な現実に慄き、どうにもやり切れない歯痒さが残った。

あらすじ

1995年、バルカン半島のどこか。国際支援団体“国境なき水と衛生管理団(Aid Across Borders)”のマンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)たちは、とある村の井戸に投げ込まれた死体の引き揚げ作業をしていたが、途中でロープが切れてしまう。彼らはロープを求めて国連軍の基地や隣村の商店に行ってみるものの、なかなかどうしてロープが手に入らない。

感想

『A Perfect Day』は、二つの意味で皮肉である。一つは、ちっとも「Perfect」ではない。「ロープの一本くらいなんとかなるだろう」と観客は気軽に考えるが、全然なんとかならない。商店にはロープがあるのに売ってくれず、おまけに国連軍は「管轄外だから手を出すな」と。なんとかロープ入手しても牛の死体トラップで足止めを食らい、ようやく引き上げられると思ったら……である。たった一本のロープを手に入れようとするだけで、ユーゴスラビア紛争の複雑な対立関係や国際支援団体の微妙な立場が垣間見えてくる。

ユーモラスな雰囲気とは対照的に過酷な現実が浮かび上がってくる一作なのだが、二つ目の皮肉は文字通り“浮かび上がってくる”。マンブルゥたちは結局引き上げを達成できなかったが、その後、大雨が降って井戸が溢れ、死体も一緒に井戸の外に出てくる。この日は村人にとって「Perfect」だったことだろう。なんとかしようとしても何もできず、何もしなくても解決する。彼らは事態の対処以外に、この「何やってるんだろう……」という徒労感とも戦わねばならないのだろう。彼らが地元民の役に立とうと四苦八苦しているのとは対照的に、地元民は地元民で牛飼いの老婆のように逞しく生活しているのだった。

マンブルゥとビー(ティム・ロビンス)はベテラン隊員である。一方のソフィ(メラニー・ティエリー)は新人で、犬の死体以外を見るのは初めてだと言う。ベテランの二人は何があっても動じなくて非常に頼もしいのだが、その背景にはどうしても感覚の麻痺が見える。活動の審査にやって来た美女兼悪女のロシア人カティヤ(オルガ・キュリレンコ)曰く、「ここに長くいると現実生活を忘れる」と。本作の“楽しさ”は、実は楽しくないはずなのである(戦場の黒パンツの件は普通に笑ってもいいと思う)。そんな百戦錬磨のマンブルゥが目をかける地元少年ニコラ。誰しも彼には同情を禁じえないと思うのだが、その同情がある種の裏切りで返され、それに納得をせざる得ないのがまたもどかしかった。

最も衝撃的なのはロープの入手方法である。その瞬間は省略されたが、ニコラの両親が吊るされていたものを利用する。隣村店主の「ロープは首を吊るのに使う」という謎ジョークが嫌な形で回収されてしまった。ここで「ムスリムが云々」という話が出てきて背景への理解不足を感じたのだが、調べてみると8000人規模の大量虐殺事件が起きていた。本作で語られる「隣人に家を爆破された」というエピソードだけでも十分に怖いのだが、その背景にはもっと恐ろしい民族対立があったようである。そもそも井戸に死体があるのも水を高値で販売するためだったりして、戦闘シーンはなくとも戦争の嫌な部分を多々突き付けられた。

薬を盛られても元気だった狂犬タイソンは逞しいが、ロープに繋がれたままでどうやって生き延びているのだろうか。タイソンに噛み勝ったニコラの父は凄い。

ロープ 戦場の生命線(字幕版)

ロープ 戦場の生命線(字幕版)

  • 発売日: 2018/12/04
  • メディア: Prime Video
 
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