オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ボウリング・フォー・コロンバイン』

Bowling for Columbine, 119min

監督:マイケル・ムーア 出演:チャールトン・ヘストンマリリン・マンソン

他:アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画

★★★

概要

どうしてアメリカでばかり銃による殺傷事件が起こるのか。

短評

マイケル・ムーアの名前と特徴的な外見を世界中に知らしめた一作(本国ではデビュー作『ロジャー&ミー』で名を上げたらしいが)。本作の編集はムーアの主張に沿った恣意的なものであり、かなり誘導的でもある。その上、解決への道を明確に示してくれるわけでもない。しかしながら、銃社会という重くて取っ付き難い素材をエンタメとして楽しめるように調理し、多くの示唆を与えてくれる点は評価せざるを得ない。本作の劇場公開時、三十郎少年が「一番マトモに見えないマリリン・マンソンが一番マトモな事を言っている」と喜んだのを覚えているが、今回も同じ感想だった。

あらすじ

1999年4月20日コロラド州のコロンバイン高校で銃乱射事件が発生する。マイケル・ムーアは問う「どうして事件は起きたのか」「どうしてアメリカで銃による殺傷事件が多発するのか」。その答えを求めて、ミシガンの市民兵ロッキード社、マリリン・マンソン、犯人に銃弾を売ったKマート、NRA会長チャールトン・ヘストンに突撃インタビューを敢行する。

感想

銃規制反対論者の典型的な言い分は、「自分の身は自分で守る」「憲法で保障された権利の行使」といったものである。「政府の専制に抵抗する義務がある」という主張に対しての「ガンジーは?」だったり、「修正第二条が保障してるのは“武器の保有”だけど核兵器保有は?」といった(相手に反論させない一方的な)ツッコミが入りはするものの、この基本的理念までは否定されない。ムーア本人が銃と共に育ったNRAの終身会員であり、アメリカと同じく銃が普及してる国ではアメリカほど銃の被害がないという事情が紹介される。

それではアメリカの特殊性とは何なのか。何か事件が起きた時に真っ先に槍玉に挙げられるのは、映画やTVゲームである。コロンバイン事件の際には犯人が愛聴していたとされるマリリン・マンソンが批判を浴びた(「犯人は事件の直前にボーリングをしていたけど責めなくていいの?」という意味のタイトル)。これに対してマンソンは「理解できるよ。俺は皆が恐れるものの象徴だから犯人にするのは簡単だよね」「恐怖と消費を結びつける一大キャンペーンが行われている」と極めて冷静な受け止め方をしている(外見とのギャップが凄まじくて戸惑う)。しかしながら、ハリウッド映画は世界中で愛されているし、暴力描写の過激化とは裏腹に犯罪率自体は下がっていたりするのである。

アメリカと同じく銃が普及し、(犯罪報道に必ず登場する黒人男性のいる)多民族社会でもあるカナダ(おまけに失業率はアメリカよりも上)。条件は同じに思えるが、年間の銃による死者数がアメリカの11,000人超に対し、カナダは165人(ちなみに日本は39人。いつのデータだろう)。本作ではアメリカとカナダの社会福祉を比較した上で、シングル・マザーが自宅から遠くまで働きに出ている間に幼い息子が起こした銃による殺人事件を紹介している。この一件は親が近くいられれば防げたのかもしれないが、事件の発生件数の違いを説明するのに適切な事例とは言えないだろう。

「国家による軍事行動と個人の銃乱射は大差ない」という皮肉めいた主張は、軍事行動の背景を一切説明しない投げっぱなし。コロンバイン事件の被害者とKマート本社に突撃して銃弾の販売を停止させるのは、ウォルマートあたりを喜ばせるだけだろう。このようにミスリーディングな描写も多い本作だが、一貫しているのは「アメリカ国民は恐怖を煽られている」という点である(マンソンの分析の通り)。「カナダのメディアはアメリカほど扇情的に犯罪を報道しない」とも紹介されている。

しかしながら、恐怖が国民を銃の購入へと走らせたとしても、銃の普及まではカナダと同条件である。その使用には何か媒介変数があるのではないか(これも恐怖で説明可能なのか)。本作は、カナダの良さそうな部分を取り上げて「アメリカはここが問題っぽい」で止まってしまっているが、たとえばブラジルのような犯罪率の高い国家も交えて比較すれば、より深い洞察が得られたのではないかと思う(統計学を持ち込むと観客に考えさせる余地がなくなりそうだが。社会学の分野で研究されてないのだろうか)。最後に哀れな老人と化したチャールトン・ヘストンを苛めて「NRAが悪い」風に締めくくっているが、同じく銃規制されていないカナダで殺人事件が少ないと紹介したのは他でもない本作である。

コロンバイン事件後に青少年が全員犯罪者予備軍のように扱われる過剰反応には大変に既視感があった。他者への恐怖や不信感が原因であれば、日本も銃規制がなければ同じような状況に陥っているのかもしれない。果たしてそうなのか。実際には複数の要因が複雑に絡み合っているはず。「恐怖を煽って銃を買わせるのをやめればいい」「銃規制すればいい」と安易に結論づけ、万能の解決策が存在すると思い込ませてしまうのは却って危険なような気もする。また、敵の設定という行為そのものが、本作が批判した恐怖を煽ることに繋がるのではないか。

ボウリング・フォー・コロンバイン(字幕版)

ボウリング・フォー・コロンバイン(字幕版)

  • 発売日: 2014/02/26
  • メディア: Prime Video