オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『へレディタリー/継承』

Hereditary, 127min

監督:アリ・アスター 出演:トニ・コレットガブリエル・バーン

★★★★

概要

祖母が死んだ一家がヤバい話。

短評

夫スティーヴンが気の毒な一作である。『ミッドサマー』の予習がてら観ようと思っていたら同作を自粛することとなり、(大人向けじゃない)DMMがクーポンを配っていたので、(「ステイシー・マーティン主演のエロサス『ロージー 檻の中の情事』を観たい!」というジョニーの要請を却下して)「これは好機!」と鑑賞した。もっと早く観ておけばよかった。いっそ『ミッドサマー』も観に行けばよかった。本編に辿り着くまでに緻密に伏線を張り巡らせながらジャンルミックスで撹乱し、そして迎える大団円。ただ映画が面白かったからとも違う謎の笑いが溢れた。とにかく凄いものを観せられた気分である。舌を鳴らす音がこんなに怖いなんて知らなかった。

あらすじ

母エレンを亡くした人形作家のアニー(トニ・コレット)。母とは仲が良くなかったためなのか今ひとつ悲しめない。お婆ちゃん子だったチャーリー(ミリー・シャピロ)以外の家族、夫スティーヴン(ガブリエル・バーン)と息子ピーター(アレックス・ウルフ)も同様である。ある日、ピーターがチャーリーを連れてパーティーに行き、会場でナッツ入りのチョコケーキを食べたチャーリーがアレルギー発作を起こす。ピーターは病院へ急行するものの、事故が起こる。

感想

ホラー映画としては長尺の二時間強を活かしたジワジワ描写(カメラの動きがスロー)で不穏な空気を漲らせ、「え、ここで?」というタイミングでの事故。その後にはアニーの絶叫と対照的な不気味なまでの静けさが続く。降霊術の話が出てきてよくある心霊ホラーになるのかと思いきや、心霊・アニーの夢遊病(+狂気)・ピーターの悪夢の三本立てで的を絞らせない。この時点でも「何が起きているのか」が不明であるために、混乱と恐怖とがイコールの状態が続く。そして訪れる本編とも呼ぶべきオカルト展開。(気付いていないものも含む)散りばめられた伏線が繋がる。最悪の結末のはずなのに、謎の爽快感というか達成感があった。

筋書きと伏線の張り方が緻密ではあるものの、悪魔崇拝というネタ自体は(ホラー映画の世界では)一般的なものである。やはり本作の肝は演出と演技であり、不安感、不気味さ、ショッカー・シークエンス、生理的嫌悪が、映画自体のジャンルと同様にバランス良くミックスされていた。

映画全体としては静謐寄りのシーンが多く、地味に「この一家は何かが可怪しい」と気味悪がらせる。この段階では“何か”が分からず、鳩の首をちょん切るチャーリーや事故現場を再現するアニーの姿もショッキングとは異なる不可解さがある。眠るアニーを囲むヒーターの赤い色も不気味である(この赤よりも優しい炎のオレンジの方が怖いだなんて)。これらの狂気寄りの演出が伏線であり、同時に撹乱ともなっている(本編のオカルトを悟らせないのと逆に笑ってしまう二重の意味で)。チャーリーの頭が吹っ飛ぶシーンや野ざらしにされた彼女の頭部、そしてペイモン像にギョッとさせられ(ジョーンの写真が出てきた時の「いやぁあああ!!!」も)、アリやハエの虫を使った演出に生理的嫌悪感が募る。

こうして考えると詰め込み過ぎに思えなくもないのだが、絶妙なバランスで上手くまとまっているのである。たとえば降霊術一つをとっても、「必ず家族全員で行うこと」という心霊ホラーならば失敗条件となる要素が、家族を巻き込むという真の目的を隠すミスリードとなっており(アニー一人でも成功させている)、ジャンルミックスが上手く機能している好例である。

心霊描写の定番カメラワークにも工夫が見られた。何か音が聞こえてカメラが移動する時は人物の後ろにいる“何か”を捉えることが多いが、本作ではそこに何もなく、逆にカメラの後ろ──人物の視線の先に首をブスブスやってる女が登場する。気まずい食卓のシーンも尋常ならざる気まずさだった。トニ・コレットの圧巻の演技力の賜物であり(よくもあんな険しい表情を作れるものだと思う)、「選択肢の存在は悲劇性を高めるか」という命題が回収される瞬間でもある。降霊術のシーンでは机の下を見せることで「ガチなのかインチキなのか」という観客の余計な迷いを取り除いており、“普通の”シーンの見せ方も上手いために二時間ずっと画面に釘付けだった。

チャーリーを演じるミリー・シャピロ。こう言うと失礼かもしれないが、彼女はあまり可愛いとは言えない。本作では特殊メイクも使用しているようだが、一見して何かが変な微妙な顔の崩れ方に不安を覚える。完全にバランスを失った異形であればこうはならない。微妙に何かが違うのである。この“違和感”が恐怖演出の土台と言えるだろう。ピーターはアニーとスティーヴンの遺伝子を継承していなさそうな顔立ちと肌色だったが、特徴的なホクロのおかげで、チャーリーの画力でも彼であることを認識できた。

ピーターが授業中に気にする前の席の女の子ブリジットちゃん(マロリー・ベクテル)。ズボンの隙間からパンツが見えないか男子なら誰でも気になりますよね。Facebookでストーキングするのも仕方ないですよね。

上手くまとめられなかったが(これ自体はいつものことだが、本作は書き残しておきたい事の量に対して実際に書けた情報量が少ない気がする。しかし、鑑賞中と執筆中にパッと思いついた以上のことは書かない方針である)、寄り道しているようでいて一直線に結末へと向かっており、開かれた地獄の釜が圧倒的な吸引力を持つ一作だった。当ブログでは「五つ星は、二度目以降の鑑賞でも一度目の同等かそれ以上の楽しみを得られた作品に限定する」という運用をしているのだが(『アイリッシュマン』は例外)、本作は『レディ・バード』に続く久々の五つ星候補だと思う。

ヘレディタリー 継承(字幕版)

ヘレディタリー 継承(字幕版)

  • 発売日: 2019/04/10
  • メディア: Prime Video