オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アイム・ノット・ゼア』

I'm Not There, 135min

監督:トッド・ヘインズ 出演:ケイト・ブランシェットクリスチャン・ベール

★★★

概要

ボブ・ディランを構成する六人の物語。

短評

ボブ・ディランという一人の人物を六人に分割して様々な側面を描いてみせた一作。「ディランをよく知らないからよく分からないだろうな」という鑑賞前の予想通りによく分からなかった。映像スタイルを変えても完全に区別されているとは言い難く、混乱させられる点も多い。しかし、最後に「一定の暮らしを続けると何かに拘束される」「俺は自在に姿を変えるんだ」という親切な説明があり、「こういう人物なのだ」という型にはめられたイメージでは語ることのできない人物であることは理解できた。彼は不思議な人物であり、本作も不思議な映画である。不思議と楽しめた。

あらすじ

詩人アルチュール・ランボーベン・ウィショー)は、取り調べを受けている。11才の黒人ブルース・シンガーであるウディ・ガスリーは、ある女性から「“今の時代”を歌いなさい」と助言を受ける。フォーク歌手として名を成したジャック・ロリンズ(クリスチャン・ベール)は、失言から隠遁生活を送り、牧師となる。俳優のロビー・クラーク(ヒース・レジャー)は、美大生のクレア(シャルロット・ゲンスブール)と結婚して子をもうけ、離婚する。フォーク音楽を捨ててエレキ・ギターを使うようになったジュード・クイン(ケイト・ブランシェット)は、激しい反発を受ける。隠遁生活を送るビリー・ザ・キッドリチャード・ギア)は、道路建設のための立ち退き命令に抗議する。

感想

詩人ランボーとしてのディランは、ノーベル文学賞を受賞した世間からの評価通りだろう。出番も少なく、発言の内容もよく分からなかったが、彼は間違いなく詩人である。

「今を生きて」と助言されたブルース・シンガーのウディは、時代の代弁者としてのディランの原型なのだろうか。彼がどのようにしてその地位を獲得したのかは分からないが、貨物列車で旅するウディのように様々な人物と出会う内になにかきっかけを得たのかもしれない。ウディ・ガスリーは実在した歌手の名前で、ディランにも影響を与えたそうである。

ジャック・ロリンズとジュード・クインは、三十郎氏のイメージする“歌手としての”ディランである。音楽スタイルに変遷があり、フォーク至上主義者から「裏切り者」「誠実でない」と批判を浴びている。既存の社会に対して反発していたイメージのあった彼に宗教に帰依した時代があるのは意外だった。三十郎氏も作風の変化したバンドに対して「こんなのが聞きたいんじゃないんだけどなあ……」と思うことがあるが、「ファンの期待に応える」ことと「自由である」ことは両立しないのだろう。六人の中で外見をディランに寄せているのはこの二人なのだが、男のベールよりの女のブランシェットの方が断然似ている。特に目を細めてボーッとしている表情は本人さながらだった。

俳優ロビーの話は私生活の反映なのだろうか。ディラン本人も若くして結婚し、離婚を経験しているようである。「詩は男にしか書けない」と発言して喧嘩していたが、男尊女卑エピソードにも元ネタがあるのだろうか。妻クレアの名前が、ディランの監督作『レナルド&クララ』に似ているので、何か関係があるのか気になる。シャルロット・ゲンスブールの乳首が『ニンフォマニアック』の時ほど長くないように見えた。この六年の間に何があったのか。2011年に出産した三人目のジョーによっぽど強く吸われたのだろうか。だから『ニンフォマニアック』での役名がジョーに……。まさかな。

最後にビリー・ザ・キッド。彼は早逝したはずだが、生きたまま老いた姿をリチャード・ギアが演じている。ディランの若い頃の活躍を彼の伝説になぞらえた上で、伝説として死ぬことなくその後も生き続けたことを示唆しているのだろうか。ビリーは隠遁生活を送りながらもお上に逆らう活躍を見せており、形を変えながらも何かの役割を担い続けてきたことが分かる。ビリー・ザ・キッドについては、ディラン本人も出演し、音楽を手掛けた『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』との関連かと思われる。

これら六人の姿を通してボブ・ディランの人物像を描いてみせたわけだが、その全てがディランであり、同時にいずれでもないのだろう。それぞれがディランの一面を伝えるが、その内の一つで語り切れる人物ではない。きっと六人合わせてもディランにはならないはずである。だから『I'm Not There』ということか。

三十郎氏としては普通の伝記映画で彼のことを学んでみたいと思ったのだが、なんと製作が決定しているそうである。主演はティモシー・シャラメ。どうしてエズラ・ミラーじゃないんだ。

アイム・ノット・ゼア(字幕版)

アイム・ノット・ゼア(字幕版)

  • 発売日: 2015/04/02
  • メディア: Prime Video
 
ビリー・ザ・キッド/21才の生涯 (字幕版)

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯 (字幕版)

  • 発売日: 2015/04/01
  • メディア: Prime Video